6/03(数学教育方法論 I)


お仕事


今回のレポートに関連して

課題の出し方が悪い/課題そのものが悪い

のいずれかが関わっているのかなとは思うのですが,どうも,期待していることとちょっとずれているように思います。

そこで,まず一般論的なことを少しまとめておきましょう。

コンピュータ利用は何のために

コンピュータを利用するために,コンピュータを利用しているのではありません。それによって,何かを改善しようと思っているからです。
「何を改善しようとしているのか」
それを意識化しないことには,先に進みません。
では,この授業では,何を意識しようとしているのでしょう。
とりあえず,「数学的探究」という言葉で表現することにしましょう。

つまり,「もっと数学らしいことをしよう。そして,そのために,コンピュータがよりよい数学をするための道具になるなら使うし,そうでないなら使わない,というスタンスを取ろうということです。

数学的探究って...

僕自身は,自分の研究が Dewey などとの関わりを持って行っているので,「探究(Inquiry)」という言葉をよく使いますが,より広く使われている言葉としては,「問題解決(Problem Solving)」があります。そして,その代表的な研究者としては, Polyaなどがいます。(もちろん,現在では,さらにいろいろな人がいますが)
Polyaの本では,様々なことが書かれています。そして,そこでねらっているのは,数学的な問題解決のプロセスの分析です。そして,自分自身がよりよい数学的問題解決者になるための発見学(Heuristics)であり,また生徒をよりよい問題解決者に育てるための様々なことです。
Polyaの著作は,問題解決研究をするわけではない人にも,おすすめの逸品です。

まあ,そういう路線を,さらにいろいろ工夫しながら進めていくにはどういうことをしようか...という路線と思っていただければいいでしょう。

一般論から入る手と,具体例から入る手

一般に,この手の話題に関しては,二つの可能性があります。理論的な一般論を展開してから,その具体例をいろいろと考えようという方向と,まず,具体的なものから入っていこうとする方向です。
そして,ここでは,後者を念頭に置いているのはいうまでもありません。

具体的な方向からのアプローチの基本

とにかく,まずある問題例に注目したいわけです。
そして,その問題の「数学的な面白さ」をじっくりと見極めたいわけです。
そして,そこに何らかの面白さがあったならば,「それは何か」を定式化すること
そして,その指導に際して,障害はないかを検討すること。
さらに,コンピュータ等の環境の改善によって,それが部分的にでも,解消されないかを考えること
が,具体的な方向性となるわけです。

何をしたいんだろう

中野君が,
 二等辺三角形ABCにおいて、直線BC上に点Dをとり、DからAB,CAにおろした垂線が、 AB,CAと交わる点をそれぞれE,Fとする。このとき、Dの動く範囲を線分BC上に限定 すると、BE+CF,DE+DFの値は一定である。そして、三角形BDEと三角形CDFの形は相似 である。これらは、「成り立つのではないか」と思われる内容に対して、値を一般 化して調べた結果得られたものだが、中には成り立たなかったものもあり、この結 果に関しては、GCを通して変形を行っていたならば、より容易に気づくことがで きたのではないか、と思った。
と述べているけれども,これはこの問題において,最も基本的なことだと思う。
同時に, 等を分析することが,必要でしょう。

僕の問い方はかなり一般的でいい加減とも言えます。それは,大学院生であれば,様々なノウハウを持っているはずで,そういうノウハウを持っている探究者が,「この問題を手がかりに,何か面白いことは見つからないか」ということの実験でもあるわけで,「元々想定されているはずの答えをどう見つけるか」ということにはあまり拘泥しないでください。
むしろ,「この問題はつまらなかったけど,こっちの問題の方が面白そうだったから,そっちを考えてみました。」ということでもいいわけです。

たとえば

たとえば,ということで,自分なりに,この問題に関する文書を作ってみました。 ここでの記述が系統的か/組織的かというと,まだまだ疑問が残りますが,たとえば,このような一つの問題に対して,「こういうことも可能かもしれない」というリストを作ることや,具体的にその先を調べてみるということが,「より深い教材研究をする」ということには不可欠です。そして,期待していたことというのは,そういう分析を「ある一部のことを深く掘り下げてみる」ということだったわけです。

作業しながら思ったこと

この事例が適切だったのかどうかということでは,自分としては,次のことを考えました。 ということで,この「3角3垂線」に関しては,問題の可能性等の列挙にとどめてみた。それらからどれかを選ぶ,あるいは,別の観点を自分なりに作って,そこから先を考えるとどうなるか,そういうことを,次回への具体的な課題としてみたい。

Excelの例に関連して


こちらも,ワークシートのWWWでの公開に関連して,トラブルがいくつかあったことと,僕自身の側から具体的な問題例を出していなかったという問題はあるわけですが,笹根さんのレポートは,前回と同様に,「具体性がない」と思います。
具体的というのは,「実際にある問題を同定して,その問題に関して,それを使って調べてみる」ということです。
私自身の経験として、 昔は、惑星の航行や、気温変化や、神経細胞のシミュレーションを、 表計算ソフトでやった記憶がある。 それで随分理解が助かった。
ということですが,それならば,その「事例」を実際に使うことが不可欠です。
あるいは,より簡単な事例でもいいわけですが,それを踏まえないことには,今までと同じ抽象論にしかなりません。

たとえば,「非線形の例」というのであれば,具体例として,「van der Pol の微分方程式」を取り上げてみましょう。この微分方程式には,極限周期解があります。そして,それは線形ではありえない現象です。
(1) 通常の数学でこれを扱うとしたら,どういう展開になるか
(2) また,そのために最低限必要な数学的知識・技能は何か
(3) コンピュータの利用を前提とする場合には,どういうアプローチが可能か
(4) そのために最低限必要な数学的知識・技能は何か
(5) また,そこで最低限必要なコンピュータ(主としてソフト)利用に関する知識・技能は何か

あるいは,高校の例で挙げるとしたら,次のようなものがあります。

y = sin 7 x + sin 8 x

これについて,次のような課題が挙げられます。