授業実践・研究協議を終えての改善型指導案 

 変更点 及び 追記部分   


◇ 目標

○ 進んで図形の性質を見つけ表現しようとする。

 ○ 四角形ABCDをいろいろな形に変形することを通して、中にできる四角形EFGHの特徴や四角形ABCDと四角形EFGHの関係など、いろいろな図形の性質に気づくことができる。

 

◇ 本時の授業構想  「四角中点」                       

【問題を把握する】

 昨日の授業で学習した初めの図形を覚えていますか。                   

 これは昨日やったことを単に思い出させるための発問ではない。昨日の図形を基に本時の問題を予想させる発問につなげるための発問である。つまり,昨日学習した「三角形,辺の中点を結ぶ」という図形から,本時の授業で扱う図形を予想させたいのである。

 

 図形を想起させるより、図形を構成していた「三角形、辺の中点」という言葉を想起させた方が今日の問題を出させやすい。したがって、図は描かず、「・三角形 ・辺の中点」という言葉を板書する。

 

 なお,前時の授業は「中点連結定理」を発見し,証明方法を理解する時間であった。しかし,あえてこちらから「中点連結定理」という言葉は出さない。中点連結定理という言葉より「三角形,辺の中点」という言葉の方が発展性があると考えるからである。子どもから出た場合は当然取り上げ,大きく板書しておきたい。

 さて,この図形を基にして,今日の問題を考えていきたいと思いますが,先生はどんな問題を出すと思いますか。                                  

 

 この図形を基にして という言葉はかえって生徒を混乱させる。次のように発問を変更する。

 三角形、辺の中点という条件を変えてみようと思っていますが、どんな変え方をすると思いますか。 

 

 「先生は次にどんなことを言うと思いますか,どんな図を書くと思いますか」といった発問は,この学級では,しばしば投げかけてきた。子どもたちにはそれほど奇異な発問ではない。したがって,だれか一人は「四角形,辺の中点」といったことを発言してくれるのではないかと思っている。ひょっとしたら,「三角形の3辺の中点を結んで・・・ 」などといった発言が出るかもしれない。大いに賞賛しながら,「実は私は違うことを思ってました」という言葉で逃げておきたい。

 この段階で,他に考えられる発問としては,「この図を基にして問題を作ってみよう」という発問である。問題作りをさせ,生徒から出された問題を基にあらかじめ計画した教師側の問題に流れていく展開がある。この発問は確かに優れているのだが,生徒の側にすれば,「なんだ,問題作りだけさせておいて。結局,先生の都合のいい問題だけをやるんじゃないか」といった気持ちを起こさせることになるのではないかと思う。

 そうです。○○君が言ってくれたように,こういう問題を考えたいのです。         

 ここで初めてワークシートを配付する。

 問題文に合う図を書きましょう。                           
 四角形ABCDの4辺AB,BC,CD,DAの中点を,それぞれ,E,F,G,Hとする。
そして,線分EF,FG,GH,HEを引く。                      
 図を書き始める前に質問はありますか。                 

 上記の文章は問題文ではない。単に状況を説明しただけの文章である。初めは「このとき四角形EFGHはどんな四角形になるか」という問いかけを含めることを考えていた。しかし,「何か気づきますか」という問いかけをするのであれば,四角形EFGHと限定しない方がよいと考えた。また,問題文の把握の状況をつかむために図を付けず,上記のように発問する。これなら誰でも取り組めるはずである。初めから作業さえできない授業では,今までの学習が十分身に付いていない子どもはまったくお手上げである。

 なお,「図を書き始める前に質問はありますか」と問うのは,「四角形というのはいろいろな形を含んでのことか」といった質問があるのではないかと思うからある。

 作図についてはフリーハンドでも定規を使ってもいいことにする。特に指定はしない。

 

 研究授業を終えてみて、やはり「四角形EFGHはどんな四角形になるか」という問いかけをした方がよいと考えた。「気づき」のバリエーションは限定されるが、やはり集団追究の進行はスムーズになる。研究授業では平行四辺形であることを証明することまでできなかったが、上記のような問いかけにすることでその時間は生まれてくるはずである。

今回の授業では、「四角形の周りに三角形ができる」といった気づきが発表されたためにコンピュータで調べるときにそれだけに注目したグループがあった。

 

【個人(二人)追究をする】

 * 黒板に問題文に合う図を書いたあと,

 問題文がかけたようですね。自分の描いた図を見て,何か気づくことがありますか。 

 一つの図を見て,どれだけのことに気づくか確かめる発問である。

 挙手があれば発表させ,なければ次のように発問する。

 一つの図ではなかなか気づかないようですね。近くの人の図を見て回ってください。何か気づくことはありますか。 

 コンピュータを活用するための布石である。一つより二つ,二つより三つの図を見た方が気づくことが多いことを認識させる意味がある。

 では,何か気づくことはありますか。                          

  「いつも」「たまたま」「僕の図形は」では、次の展開が異なってくる。注意を。

 ・ いつも四角形EFGHは平行四辺形。  

 ・ 三角形と四角形ができる。 

 ・ 辺EFは対角線ACの半分。 など

 ここではあまり多くのことが発表されないと判断している。

 なお,子どもの気づきについてはすべて受け入れていきたい。そして,図形を見る視点から「君は図を全体で見たんだ。君は図を部分で見たんだ」というような投げかけをしておきたい。それが,図 の見方が豊かでない子どもへの指導につながるはずである。

 

   研究授業では、ここでの対応のまずさが指摘された。

単に「平行四辺形ができた」という発言を「自分の描いた図でできた」のか「いつもできそうだ」と思ったのか、そのあたりをあいまいにして進めてしまった。生徒の発言を大切に取り上げる細心の注意が必要である。

また、授業では、「全体で見る見方、部分で見る見方」といった視点の指示も忘れてしまった。生徒の発言をゆったり聞き、落ち着いて対応できるように何度もイメージトレーニングをしておくことも必要である。

 

 なるほど,図を二,三,見るだけで気づくことが多いね。さあ,この後,先生はどんなことを言うでしょう。 

 「先生は,コンピュータを使いましょうと言う」という言葉を期待しての発問である。子どもがコンピュータの「コ」の字も言わなかったときは,「よし、プリントに図形をもっともっと描いてみよう。100個ぐらい描いてみようか」などと言う。

 

   研究協議では、この問題はコンピュータを使わず、紙の上だけでもできる問題ではないかという意見があった。例えば、10種類くらいの図を描かせ、それを黒板に掲示して観察するという手も考えられる。しかし、おそらく実践してみると、図形を描く時間や能力差から時間のロスを招く恐れが十分予想できる。コンピュータのよさを活用したい。

 そうです。そこでだ,○○君が言うようにコンピュータを使いましょう。          

 コンピュータはこの時に立ちあげることにする。VMの立ち上げの遅さを考えれば,初めからあらかじめGCを起動させておきたいのだが,そこまでしては・・・という気持ちである。

 ☆ GCのファイルから「四角中点」を呼び込ませる。教師の画面を転送して,四角形の変形の仕  方を確認する。

 

   コンピュータの処理スピードの関係で、マウスによる変形を選択した。矢印キーによるアナログ的な変形と比較すると、「気づき」がどう違ってくるかということも協議会で話題となった。

あらかじめ外側の四角形の形状を定めておいて調べさせるときにマウスによる変形をすると、ダイレクト(デジタル的)にその形に変形することができるのでいい。

      

 さあ,今気づいたことを確かめたり,さらにいろいろな場合の四角形を考えてみましょう。
気づくことをどんどん記録してください。                        
 

 机間指導を通して,つぶやきや気づきをできるだけ拾い集めておきたい。そして,意図的指名に活かしていきたい。

【集団追究】

 では,コンピュータを使って気づいたことや考えたことを発表してください。       

 次のようなものが出てくるといい。

 部分で見て・・・ 辺と対角線の位置関係や長さに注目したもの

         例 * 辺EFと対角線ACは平行である。

           * 辺EFは対角線ACの半分である。

 全体で見て・・・ 出現する図形について注目したもの         

         例 * 四角形EFGHは長方形や正方形になるときもある。

           * 四角形ABCDがくさび形になっても四角形EFGHは平行四辺形。

 この段階で,「コンピュータを使っていろいろな図を観察すると,多くのことに気づくね」といい

たいなあ。                                        

 さて,出されたことにマークを付けてみよう。これは間違いないというのには「!」,そうかもしれないというのには「?」,間違いだというのには「×」を付けてみよう。 

 この問いに対する授業の流し方は時間と子どもの様子で臨機応変に行っていきたい。

 

  上記の発問は、不適当であった。実際の授業場面では、それぞれの生徒が取り組んだことが異なっているために、上記のように判断を求めても、生徒は答えることができない。また、時間的にもこの段階まででかなりの時間が経過してしまう。したがって、発問を次のように変更する。

 多くのことが発表されました。その中で、中の四角形に注目すると、平行四辺形や
ひし形や正方形、長方形になるといったことが発表されました。
 これらのことから、中にできる四角形についてはどんなことが言えますか。
 

おそらく「平行四辺形である」ということが出されるはずである。この学習までに四角形の包摂関係について学習が終わっている。特別な四角形はすべて平行四辺形の仲間であったことから、中にできる四角形は平行四辺形であることを証明しようという流れを次にとっても、生徒は納得するはずである。

 

 「四角形EFGHは平行四辺形である」ことを証明するように持っていきたいが,これもここまでの展開の様子で判断していきたい。ひょっとしたら,気づきを集めるともうすでに証明が終わりということになるかもしれない。

 

   研究授業では、例えば「四角形ABCDの対角線と辺EFが平行である」といった証明につながる気づきは発表されなかった。四角形ABCDの対角線は目に見えないために、それに関する気づきは出なかった。初めから四角形EFGHの観察に活動を限定しても無理なことかもしれない。平行四辺形であることを証明する段階で初めて出てくることなのかもしれない。

 

 この証明に入り,行き詰まっている生徒が多いときは,できた生徒に中間発表をさせ,証明のための大切な要素を全員に知らせていきたい。なお,証明については簡単に口頭で行っていきたい。

 

   主発問を授業実践前のように「気づくことをあげなさい」といったかなりオープンなもので授業を構成する場合は、『この時間は「気づき」を発表しあう時間である』と設定した方がいいという結論である。

したがって、上記の発問で、中の四角形は平行四辺形であるといったことが認められた段階で、その証明に次時は取り組むことを決定し、授業終了とする。

ただし、授業のまとめとして、発表された事柄をそれぞれがGCや紙の上で確かめてみる作業を取り入れ、全員で確かめておく。

また、研究協議会で指摘があったように「調べ方を学ぶ」という観点から、ただ単に変形させるのではなく、意図的に変形することの大切さなどを具体的な事例を取り上げて押さえておくことが必要である。

 

  最終的にこの四角中点の第1時の流れは次のように考える。

主発問を「四角形EFGHはどんな四角形か」とする場合は、GCを使って調べる前に外の四角形の形状をあらかじめあげておき、平行四辺形であることの証明まで終える。

 

主発問を「何か気づくことはありますか」といったオープンなものとする場合は、気づきをたくさんあげさせることを主目標とする。そして、授業の最後では調べ方について、意図的な変形とまとめ方などを事例を取り上げて説明し、授業を終える。

 

3 成果と今後の課題

 (1) 成果

 本年度は研究のアプローチを大きく変更した。この報告書にあるように数学一教科、しかも一課題に限定しての研究とした。その意図は「1 研究のねらいと経過」の項で述べたとおりである。

 その結果、来年度、教科書の位置づけが変わる「中点連結定理とその応用」におけるコンピュータの活用法について、「研究授業構想→授業案→実践→協議・授業分析→改善型指導案→再実践へ」といった形式により、非常に具体的な提言をまとめることができた。今回のアプローチは、コンピュータ活用研究にとどまらず、授業改善のための一つの手法として意義のあるものであったと確信している。

 また、本年度の成果を受けて、各学校が実践を行うために「GCのシステム」が各中学校40枚ずつ配付できたことの意義も大きいと考えている。

 単に一教科、一課題を通しての研究であったが、ここで提言したコンピュータの活用法は、生徒に単に知識や技能を身につけさせようとするものではなく、コンピュータを探求の道具として位置づけ、自ら操作する中で、生徒なりの数理を発見させようとするものである。ここで求められている学力は、新学力観が求めている学力と合致しており、数学をはじめ、他教科におけるコンピュータ活用法を考えていく上で少なからず参考になるものであると信じている。

 (2) 課題

 報告書にはページ数の関係で資料を挿入することはできなかったが、研究授業に至るまでの授業の記録を公開して授業実践を行った。それは本時までに普段の授業でかなりの配慮をしたからである。もっともコンピュータを使うための練習の時間をとったということではない。

 この報告書で提言したように、コンピュータを探求の道具として活用する場合、コンピュータを活用しない日ごろの授業でも、自ら調べ、考え、発表するといった体験がなされていなければ、いくら道具が優れたものであっても、本当の意味で使い切れないからである。

 日ごろの授業や教師の授業観をどう変容させていくか、どうしたら本研究委員会がそういった向上的変容の一助を担うことができるのか、新たなアプローチをした本年度の進め方と従来までの進め方を比較し、今後の方向を考えていく必要がある。

 

参 考 文 献

  ○ 飯島康之・磯田正美・大久保和義編著「コンピュータで数学授業を変えよう」明治図書

  ○ 飯島康之編著「GCを活用した図形指導」明治図書

  ○ 玉置崇・鈴木良隆・八槇直幸・永井聡・鈴木登美雄著

    「数学の授業を感動の連続に」明治図書

  ○ Geometric Constructorに関するインターネット情報

    http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/teacher/iijima/

 


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