Excelの例に関連して
まず、簡単な事例と言うことで、数学教育ではありませんが、
数学を用いた事例として、彗星の軌道計算をExcelで行いました。
一応、軌道計算した結果とそのワークシートを添付します。
(1)添付の計算結果をみれば、これを通常の数学では、解析は不可能に近い。
大学教育で、複雑で直観的に理解することが難しい問題には、
てっ取り早くコンピュータ計算させるのが良いと言う場合の、
一つの例と考える。
(2)さて、数学上で最低限必要なことは、
「コンピュータ計算する際の、積分等の数値計算法の知識」
が必要となります。
ただし、Excelではルンゲクッタ法等の微分方程式の解法は、
あまりに手間がかかりすぎるので、
オイラー法等のは誤差が大きいが、簡単に実現できる手法での
適用に限定される。
しかし、Excelによるシミュレートは、
厳密な計算が目的ではなく、あくまで大まかな振舞を理解するためだけなので、
数値計算法のイロハさえ教育しておけば十分可能と思われる。
ということですが,事例としては,とても分かりやすい例だと思います。
Excel以外でもすることはできますが,コンピュータなしにやろうと思うと,微分方程式を解くということができないとどうにもならないと言えるでしょう。
しかしまた,「教育的分析」は,ここから始まると言ってもいいのです。逆に言えば,「コンピュータならではの例」というのは,出発点であって,ただそれだけでは,「だからなんなんだ」状態になってしまいます。考察の観点はいくつかありえます。
- 数学的「プロセス」として何が関わるのか
たとえば,この事例を提示された生徒あるいは学生は,「何」をすべきでしょう。あるいは,どういう数学的な探究を「続ける」ことができるでしょう。この事例に関連して,いくつかの事柄を挙げてみましょう。
- 初期値を変えてみる
彗星の軌道にふさわしい動きをしてくれます。初期値を変えると惑星的な動きなど,双曲線,放物線,楕円のそれぞれの動きを見ることができます。
- 「誤差」に注目し,よりよい方法を考える
特に「楕円」になる場合には,一定の軌道を動くはずが,少しずつずれてくることに気づきます。(双曲線や放物線では気づかないでしょう)その原因がどこにあるのか,そしてそれは修正可能なのかというところで,笹根さんが指摘されているような問題が生じてくると言えるでしょう。
- 微分方程式を変えてみる
万有引力の法則によって,この微分方程式が成立しているわけですが,他の力がかかっている場合は,別の微分方程式になります。あるいは,微分方程式の方をちょっといたずらして変えてみたらどうなるか,そういう追求の可能性も出てきます。特に,適当な式を立てた場合,それが「数学的に解ける」ということが,従来では不可欠なことですが,そういう要因は,近似的に計算するという場合には気にする必要がありません。
- 学習に不可欠な知識/それを補完する道具等
たとえば,上記の問題例の場合,以前であれば,2階の微分方程式が解けることが不可欠でした。しかし,Excelで調べるという場合には,微分方程式の「解法」に関する知識や技能の必要性は非常に少なくなります。微分方程式に関する知識がまったく不要になるというわけではありません。各点での状態がベクトル場として与えられていれば,それを接続することよって,解曲線が得られるというような考え方は不可欠です。むしろ,今までであれば,微分方程式の応用まで行かないと出てこなかった考え方かもしれません。そういうものを,よりプリミティブな形で提示することが必要になってきます。
また,今までは必要だった知識・技能を要求しないということは,それに対する代替機能をExcelのような道具の中に要求していると言えるでしょう。それらを明確化することによって,当該の事例の「学習可能性」の変化について考察することはできると思います。
- 基礎・基本に相当するものはどう変わるのか
一つの事例に関して学習するということは,それを通じて,より広い問題の集合に対する扱い方を学習することと言っていいでしょう。「その事例」に関して熟知することというよりは,その事例を通して,それなりの「基礎・基本」を学習することが意味を持ちます。そのような「基礎・基本」が道具の変更によって,変わるのか変わらないのか,変わるとすれば,どういう部分がどう変わるのか等を分析することは,カリキュラム研究的な側面から見てとても重要なことです。
ここでは,「微分方程式の解」に関連するテーマを笹根さんが取り上げたわけですが,Excelに話を限定しても,他にも様々な数学的話題があります。既存のテーマについて,より深く分析する手もありますし,他の様々なテーマについて事例を明確化するところから始めてみるのも,いいと思います。
「アポロニウスの円」に関して
「よい数学的問題には,複数のアプローチの方法がある」というようなたぐいのことが,「実験室法」的な考えにあると思いますが,この事例も,複数のアプローチが可能な話題です。
次に、アポロニウスの円の問題の「問題解法」という点において見ると、単元内
容により変わっています。
数学Aについては、平面幾何の一部であるので、
「ある2定点A,Bと、他の一点Pをとり、三角形PABの頂角である角Pとそ
の外角の二等分線それぞれと直線ABを交わらせることにより二点C,Dをとる。
すると、三角形PCDで円周角の定理を用いることによって、CDを直径とする円
周上をPが動く」ということによりアポロニウスの円が導き出されています。
数学2については、図形と方程式の一部であるので、
「ある2定点A,Bの座標を確定し、(置き、)距離比から関係を求め、距離を
数式化することによって新しい関係式を求めて円の方程式が導き出される」ことに
よりアポロニウスの円が導き出されているのです。
現在の状況としては、数学Aの内容は割愛されることが多く、事実上使われてい
ないことが多く、数式のみで処理されているだけのように見えます。
(数学A:図形の感覚による軌跡 数学2:数式による軌跡)
多様な見方ができるようになれるのが数学の1つの目標ではないかと考えている私
にとっては、少し奇妙なことに感じています。他の皆さんはどのように考えられて
いるのでしょうか。いろいろとお聞きしたいと思います。
ということですが,例えば,「教育研究」としては,上記のような二つのアプローチに対して,作図ツールで調べるというのは,どういう位置づき方をするのかをより詳しく分析することが必要になるでしょう。そして,たとえば,「類題」の集合がどう違うのかなど,いくつかの観点から具体的に比較してみるといいでしょう。
ある意味で,一つの問題に複数のアプローチがあるというのは,直線的な学習を考えると「奇妙なこと」とも言えます。しかし,「世界は多様だ」という見方をすれば,そのような世界の縮図として扱うことも可能でしょう。複数のアプローチで,それぞれどういう特徴があるかを明確にした後では,そういう素材をどういう形で生かすかを,発問・単元構成など,いくつかの観点で明確化するというのが,教育研究の次の課題となるでしょう。
「3角3垂線」に関して
これに関しては,それぞれの人がいろいろと面白い発見等をしているので,まず,それを発表してもらい,「そのプロセスの何が面白いのか」を分析してみましょう。
そして,次に,
「そういう面白さを実感できるようにするには,どういう発問が適切か」
「どういう道具が不可欠/適切か」
を考えてみましょう。
そして,発問の多様性とそれに付随する教育目標の多様性を検討してみることが,次のステップへの手がかりになると思います。
また,ある意味では実質的にはあまり変わらないとも言える「3角3線分」を出発点にして調べるときとは,どのような違いがあるでしょう。
(数学的にはあまり変わらなくても,教育的には大きな違いが生じることはよくあることです)