1.ツールをツールとして使うためには,「一般的に通用する見方・考え方」等との関わりが明確な形で使わなければならない。それは,教育目標の明確化と言ってもいい。 たとえば,作図ツールの場合,どのような教育目標が考えられるか。また,その教育目標を実現するための素材と考えられる問題例を挙げよ。 |
様々な業務の改善策としてのソフト開発も同様かもしれませんが,教育の場合も,ソフト利用はまったくの「新規」ということはありません。別の道具で別の形態で行われていることに対する「代替物」(と言うと言葉が悪いか? Alternative と言うとまだましか ?)です。「乗り換える」方がましか,そのままの方がましか。常にそういう選択の下にさらされるべきものであり,またそのような「比較」と「評価」が不可欠な存在と言ってもいいでしょう。
「ある授業/ある問題」での利用 が適切かどうかは,「その授業/問題」での利用が他に優る場合です。どういう面で優るのかを明確にすることが「その授業/問題」に関する範囲での上記の教育目標の明確化と言っていいでしょう。
しかし一方で,その教育目標は,「その授業に限って成立する」ものなのか,「より広い範囲でも成立する」ものなのかを検討する必要があります。たとえば,「ツール的な利用」を考えるという場合には,一般に,後者を目指しているということができます。
そのような教育目標(あるいは学習目標)が実現可能かどうかは,実は,扱う問題によって,また道具(狭い意味では教具,広い意味では学習環境)によって変化します。
たとえば,「いろいろな場合を調べる」ということでさえ,「実質的に紙と鉛筆でも十分可能な問題」もあれば,「作図ツールを使うと初めて実質的に可能になる問題」もあるし,さらに「もっと強力な道具を使わないとだめな問題」もありえます。
一般には,「教科書で扱っている問題」は,「紙と鉛筆等の既存の道具で,それなりのことが実現可能な問題」です。ですから,「その問題だけ」を念頭に置き,他の道具でも実現可能な教育目標を想定している限りは,その問題に,新しい道具を使うことは意味がありません。そのため,最低限でも,
のいずれかを満たす必要があるでしょう。
今回,レポートの中で挙げられている目標は,多岐にわたります。また,正直言って,「もっときちんとまとめる」あるいは「定式化する」ことが必要なものあります。リストにしてみました。
氏名 | 実現可能な目標 | 現状 | 具体例 |
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杉本勝美 | ある図形の変形などをもとにして、今までは目に見えなかったものを、自分の手で変形して式などでしか理解できないのではなく、変形を体験して様々な性質を自分で見つけていく事 | ある1つのものでしか見えていないことは間違いなく、他の図形についてなどは考えていないのがほとんどです。つまり、代表的なものだけをやって、後は「同様に」すると他のものもできる、で片づけられてしまっている | アポロニウスの円を、比を変えたり、変化のさせ方 を変えたりして問題の変化をさせるのもいいのではないか |
山口理恵 | 生徒に発見をさせること。 | 軌跡の問題 | |
山口理恵 | 数学というものを生徒にとって「大きな問題」から「小さな問題」へ、かつ「楽しむこと」へとかえること。 | ||
「生徒の多様な発想を、作図ツールを用いることで具現化しやすくし、逆に、作図ツールを用いることで、生徒の発想を多様にのばす環境を用意する」 | 生徒がせっかく考えついたアイディアでも、言語や描画によってうまく表現することができなければ、そのアイディアは、教師に伝わることなく流れてしまう。 | Y=aX^2とY=a(X-p)^2+qとの、グラフ上での関係 | |
豊田雅樹 | 特殊から一般への見通し | AB=ACの二等辺三角形があり、AB,ACの中点M,Nを結んだとする。このとき、MN=1/2ACである(中点連結定理)ということが、すでにわかっているとして、Aが移動して二等辺三角形でなくなったら、この関係はどうなるか、という問題 | |
豊田雅樹 | 公式、性質等の直観的把握(見てわかる) | 図形の中に「何らかの性質」が含まれ ているものを与え、それを自由に変形したり、線を加えたりすることを通して、そうしても変化しない性質、こういうときだけこうなるという性質、などを直観的に見つけることができるのではないだろうか。 | 中点連結定理や任意の四角形の各辺の中点を結んでできる平行四辺形 |
波多野賢太郎 | その図形に関する様々な問題を作り出す経験、それについて議論する経験をすること問題を一般化することによって、図形の性質などについて体系的にとらえる経験をすること | ||
渡邉亘宏 | ある問題から子供たちが様々な考え方や意見を抱くこと(もし、ここに線を引くとどうなるか?など)をもとに、実際にツールを用いることで子供たちの考えに的確に対処できるようにすることが目標になると思います。したがって、ツールを使って子供たちが実際に図形を動かしてみることや、紙と鉛筆を使って解いた予想を、では、今度はコンピュータで動かして確かめてみようというように、それぞれの場面、状況によってコンピュータをどのように使い分けていくかを考えていくことが教育目標の1つであると思います。 | 平行四辺形ABCDの内部に点Eを取り、点A、B、C、Dとそれぞれ結び、子供たちが、どのように気付き、発見するかを見てみる。ここでは、平行四辺形の内部の点Eに着目してその点が外部にあったらどうなるかや、また、内部にできた4つの三角形の面積は等しくなることなどを実際にツールを用いて考えていく。 | |
渡邉亘宏 | 2つの正三角形の頂点を互いに結びこの図形をいろいろ変化させてみる。例えば、頂点の位置を変えたり、正三角形の条件を変えたり、正三角形をもう1つ加えてみたりなどする。 | ||
古畑守 | 「与えられた図形の性質を基にして、その図形にいろいろな操作をすることによ り何か性質を見いだし、それを確かめることができるようにする。」 |
「AD//BCの台形ABCDで、辺ABの中点をM、辺DCの中点をNとすると、
簡単な例であるが、この問題では、AD//BCという条件をはずすとMN≦1/2(AD+BC)になる。 |
上記の内容から感じることは何でしょうか。基本的には,まだまだ
と言えるでしょう。もちろん,それは,レポートを書いている人が,作図ツールによる研究を志しているわけではないということはあるかもしれません。しかし,特に数学教育で論文を書こうという場合には,共通して言えることだと思います。そして,特にコンピュータなどを使う場合には,上記の作業は,ソフトの設計/改良をする上でも,重要なことなのです。
そういう意味でも,ここ数回は,より深く追求することを考えてみましょう。
少し一般的に記述してみます。
既存の環境(紙と鉛筆など)で, ある事例 A において ある教育目標が実現されているとする |
この事例のケーススタディを元に行うべきことは,基本的には,次の2点です。
上記の観点でさらに進めていくために,次の課題を考えましょう。ある程度,分担して行いたいと思います。
(この作業は,飯島研のメンバーで手分けしてやろう。かなり厚くなるかもしれないが,一つの問題を1枚の紙に貼り,出典や簡単なコメントを書き込めるようにしよう。そのため,まず,ワークシートを設計し,1000枚ほど印刷することから始めよう。)
一見無謀に見えるかもしれないが,そういう具体的な作業を力任せにやって,全体像をきちんと把握するということは,教育研究では結構大切なことである。
2.ビジネスソフトなど,元々教育用ソフトでないソフトを教育用に使える可能性はもちろんある。たとえば,Excelのようの表計算ソフトの場合,具体的に,どのような利用が考えられるか。また,「数学の学習のための道具としてExcelを使う」ためには,「ビジネスソフトの使い方講習」とは違う工夫が必要な場合もあるはずだ。もし可能ならば,どういう工夫が必要かを考察せよ。 |
一般に,ツールソフトというのは,「ちょっとした使い方」であれば,「ちょっとした学習」で十分である。すべての機能を知り尽くしていないと使えないという代物ではない。表計算ソフトを用いる場合、数学教育に限らず、生徒全員が表計算ソフトの使用方法について熟知していない限り、現状では教師が生徒に画面を示しながら、関数系のふるまいを表計算ソフトを用いて見せる形態以外には無い。
※ 生徒全員が表計算ソフトの使用方法を知っていれば、生徒一人一人が、関数、数列、微積分のふるまいを具体的に知る上で、インタラクティブにコンピュータ上でシミュレートできて、理想的なのだが。
2.1で述べたように、表計算ソフトの適用範囲は、小中学レベルではなく、数列、微積分のような高校レベルの抽象的な概念を具体化する一つの手段となろう。どのような画面を示せば、生徒が抽象的な概念を具体化できるか、最低限、グラフのみならず、表の表示方法、どのような数式が計算しているのか等を生徒が分かる必要があるため、画面の工夫が必要であろう。
また、教師のみが操作する場合、生徒がただ受身となってしまう可能性もあるため、そうならないように、授業の進め方も工夫する必要があろう。
また,ここでは触れていない別の問題として,汎用ツールでの仕様と,実際の数学的探究の中で注目したいことの「ずれ」の存在がある。これは,作図ツールに関しても言えることだ。
しかしまた,一つの環境の中に,あらゆるものを盛り込むことが必ずしも妥当とは言えない。想定される数学的探究のためのシステムの中のある部分はソフトウェアの側に,そしてある部分はユーザーの側に想定し,人間の柔軟性をうまく生かすことが,使いやすいソフト作りのための,そして,設計を越えて,ユーザーが独自の世界を構築していく上でも不可欠のことではないだろうか。
3.GCのユーザーインターフェイスの特徴に関して分析せよ。なお,「比較」をしたい場合には,同様の作図ツールの例としては,
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これらに関しては,具体的な説明をとりあえずお願いしよう(特に前者の意味がよく分からない)。
後者に関しては,意見が出されるのはもっともだと思う。また,自分でも,いろいろと誘惑にかられるところでもある。可能ならば,他の作図ツール(それらは概して,川口さんの要求にあっているものが多い。)と比較していただきたい。
同時に,開発者としては,次の2点も含めて検討してみていただきたい。
また,ユーザーインターフェイスあるいは基本設計を評価する上で,関連する他の標準的なソフト(特に Windows での流儀)と比較するというのは,基本的な一つの方法である。
同時に,基本的な事例を実際に操作してみて,どう思うかということも,基本的なことの一つである。そこで,次の問題をケーススタディとしてみてほしい。
四角形 ABCD のそれぞれの辺の中点を E,F,G,H とするとき,ABCDがどのような四角形のときに,EFGHはどのような形になるかを調べよ。
このメールの中に図を入れるのにはどうしたらよいのでしょうか。ペイントツールで作ったものを、切り張りしようと思ったのですが、上手くいきませんでした。やり方が悪いのでしょうか?どなたか教えて下さい。(豊田) |
いくつかの手がありますが,最も基本的な方法は,