多様性
授業設計の基礎
パソコンを何台も使って作業をする意味
個別学習をする場合は,「一人一台」というのは,それぞれの生徒に合わせた学習を別々に行うという意味で,そして普通の授業ではできにくいことを実現するという意味で意味があります。しかし,Geometric Constructorのようなツール型のソフトを使う場合,そのソフトの使い方の習熟と定着を図る場合は別ですが,「一斉授業」の中での「個別作業」としてコンピュータを何台も使う場合には,「結果として同じことを見つけるために何台ものコンピュータを使う」という作業は意味がありません。「一つの答を誰が早く見つけるか」というゲームにしかなりません。作図ツールなどを使うプロセスの面白さはインターラクティブだという点にあります。そして,事実を観察する主体である生徒が「複数」いるということは,それぞれが発見することなどが「違う」ところに意味があります。そういう違い,つまり多様性をうまく生かすために,「何台もの」コンピュータを並行して使う意味があると言えるでしょう。
「多様性」の源泉
Geometric Constructorなどを使う場合の「多様性」の源泉をまとめると,次のような場合があります。(以下の項目は,まだ増える可能性はあります。)
- 問題の中に「いろいろな場合」がある→それぞれの場合について調べる(特殊化の分業)
- 答の中に「いろいろな場合」がある→それぞれの結果をまとめる(帰納,一般化)
- 調べる方法,作図の仕方など「いろいろな手続き」がいろいろある
- 同じ一つの図であっても,「いろいろな解釈」がある
- 証明・補助線の多様性
- 「次に考えてみたいこと」や「図に追加してみたいもの」などの発展の多様性
- 「似た問題」の多様性
授業設計の基礎の一つとしての「多様性」
「答が一つ」では仕方がないので,多様にしたいとは言っても,多様であればあるほどいいというものでもありません。授業においては,ある程度多様化したあとで,どうするのかという問題があります。つまり,どのような多様性を目指すのかという問題です。(このことに関しては,古藤先生の議論が示唆的です。)
また,どの程度の幅の多様性が妥当かという問題もあります。たとえば,すべての生徒が違う問題に取り組んだとすると,それらの発表等には実に膨大な時間がかかります。「夏休みの一研究」などはそれが適しているとも言えますが,通常の授業の中で行う場合には,その多様性は,1・2時間の中で作業・発表・まとめができる程度の幅でなければいけません。
どのような多様性を目指すのか,それが,授業研究において検討すべき一つの重要なポイントになります。
「多様性の幅」をコントロールするものとしての「発問」等
そのような多様性は,コントロールすべき対象です。たとえば,発問を変えることによって,その幅は変わります。逆に言えば,発問をいろいろと検討してみて,それぞれの発問では,どういう多様性があるかを考え,授業として実施するのには,どれが適切かを検討し,絞っていくというプロセスが授業設計の基本といっていいでしょう。
多様性について検討するためのケーススタディ