+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |                 GC通信                 | | No.1 / 94.5.14 | |   - 愛知教育大学公開講座「コンピュータで図形の授業を変えよう」-     | |             第一回資料:本講座の概要             | |               飯 島 康 之                | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |          1.はじめに −自己紹介を兼ねて−           | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+  1.1 研究の略歴  大学生のときは,微分幾何を専攻。他にトポロジーなど,主として幾何学に関心を持っ ていた。大学院生になり,幾何教育やモデル化, またDewey の探究等に関して研究をして きた。附属中学校と附属高校でそれぞれ1年の非常勤講師を経験し,授業そのものや,先 生方との対話から,授業の面白さと難しさを教えていただいた。理論的な面からの考察や 教育的示唆を,それなりに行ったつもりではいたが,実際の授業の改善等を考えたときに ,多くの障害があることを感じてきた。 大学に就職するとともに,授業の中でプログラミングを指導する機会や初等幾何学の演 習を担当し,作図をコンピュータにやらせると,幾何的な問題解決がかなり変わるのでは ないかと感じた。 89年春からQuick BASIC が使えるようになった。それまでN88-BASIC などで感じていた 障害のかなりの部分が解消されたため,当初考えていたソフトを実際に作るところまでこ ぎつけた。上越教育大学附属中学校の中野敏明先生 (現在, 柏崎市立第一中学校教頭) に 見て頂き,試験的な授業を実施していただいた。 授業から多くの問題点と見通しとを与えていただき,それを抱えたまま愛知教育大学に 転勤。90〜91年は,ソフトの改良と平行して,教材開発を行った。92年になり,明治図書 の「数学教育」誌で連載を書かせていただけることになり,それを一つのきっかけとして ,いくつかの学校で授業研究をしていただいた。 この共同研究を通じて, 現場の先生方との教材研究や授業研究の面白さを感じると共に ,コンピュータを教育で使いこなすことの意義と難しさ, そして非常に多くの課題が残さ れていること,そして,それらの課題は,多くの先生方にとっても,すでに十分手の届く 範囲にまで具体化していていることを感じているところである。 1.2 Geometric Constructor の基本的機能 (マニュアル1参照のこと)  1.2.0  最低限のキー操作       ←↑↓→:メニュー選択,点などの移動の方向   リターン:メニューの決定      Esc  :現在の作業の終了,元のメニューへ       の6つのキー 1.2.1  変形 1.2.2  補助線の追加 1.2.3  測定 1.2.4  軌跡を取る  (「軌跡の設定」,F9 を忘れずに) 1.2.5  作図の基本的な考え方 1.2.6  拡大・縮小 1.2.7  ハードコピー(F6) 1.2.8  ヘルプ(F1,シフト+F1) 1.2.9  図形ごとの文書作成・参照(F5) 1.2.10 画面分割(F2,F3)  1.2.11 履歴の記録・読出 (起動時スイッチ /W, /R) 1.2.12 メニューのカスタマイズ(F10) 1.2.13 落書き機能 (F8, LAN での画面転送時などに, ver.4.4A以降)  付記1: 関連文献の中で,市販されているもの  礒田,大久保,飯島編『メディアを活用する数学科課題学習」,明治図書,1992   飯島, 礒田, 大久保等「コンピュータで授業を変えよう」, 明治図書, 『数学教育』    1993.1〜 19994.4 上越教育大学附属中学校『コンピュータで授業が変わった』, 図書文化,1991 (中野氏, 松沢氏による執筆) 上越数学教育研究会Σ会『算数・数学科におけるDo Math の指導』, 東洋館,1991 (森田教授, 中野氏による執筆) 三輪辰郎教授退官記念論文集『数学教育の進歩』, 東洋館, 1993 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |      2.教育におけるコンピュータとの付き合い方について       | |          - 共同研究などから教えられたこと -           | |         明治図書「数学教育」誌,93.11 月号参照          | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+  2.1 通常の教育実践・研究のための一つの道具としてのコンピュータ   2.2 新しい数学的経験を「する」ことを可能にするコンピュータ     =本格的な教材研究の可能性を広げるものとしてのコンピュータ   2.3 日頃の授業で「やりたいのにできない」ことを見つけることの重要性   2.4 議論の面白さを生むコンピュータ   2.5 知識伝達の方法を再考させるコンピュータ   2.6 ソフト=ソフトそのもの+使う人+コミュニケーション+各種資料+.. +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |        3.ツール型のソフトの種類と特徴と付き合い方        | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+  3.1 基本は,コンピュータという道具を使いながら,数学的探究を行うこと。   3.2 数学的探究の場面を構成する方法は様々である。     (1) 30行プログラミングをさせるのも一つの方法である。       例: 関数のグラフをいろいろと書かせることなど     (2) 30行プログラミングの限界       (a) 言語との相性の不適合 : 言語で直接用意されている枠を少し出ようと                     思うと,途端にプログラミングが長くなる。       (b) 教育目標との関わり : コンピュータの仕組みを意識化させる必要は                     ない。                     ブラックボックスにすべき部分とホワイトボ                     ックスにすべき部分とを分離する必要がある   (3) 次の選択肢としての「場面特定型のソフト」と「ツール型のソフト」       場面特定型のソフトの利点と欠点        ○想定している授業(のみ)に則して,必要な機能等を考察すればいい。        ○多くの場合,プログラムそのものはそれほど大規模にならずに済む。        ○ソフトを見れば,ある程度授業での使い方が分かる。        ×類似の課題であっても,そのソフトが対応していないことが多い。その         ため,関連する授業に合ったソフトを作るためには,プログラミングそ         のものを行わなければいけない。       ツール型のソフトの利点と欠点        ○ある課題で使うことができた考え方ならば,同様の多くの課題について         適用可能になっていることが多い。そのため,新たにプログラミングを         するのではなく,そのソフトを操作することによって,類似の課題に対         応できる。        ×ソフトそのものを見ても,授業での使い方は分からない。        ×ある程度汎用の機能のみを実現しているので,それぞれの問題について         は,「こういうことをしたい」という意図に対応できないことがある。        ×開発には時間と労力がかかる。   3.3 ユーザーから見た2種類のソフトとの付き合い方     (1) 基本は,教材研究と授業研究     (2) 場面特定型ソフトの場合       ・どんな授業かが分かりやすい。       ・事例に不満を感じたら,ソフトの不備とは思わないこと。       ・ソースコードを「読んで」, 改良すること。       ・プログラミングの勉強をしなければならないが,その代わり, 手作りで思 いのままのソフトを作れる可能性が待っている。     (3) ツール型ソフトの場合       ・自分自身がそれを使っていろいろな数学的探究をすること。       ・その経験を生徒の経験として再構成できないかということが,授業化の出 発点       ・数学的に「どんなことをしたいか」のみを考え,コンピュータに対して意 識しなければならないことはできるだけ最低限にすること。       ・ソフトに不満を感じたら,作者と直接連絡取るといい。本当に必要な機能 なら,いつか改良してくれる。       ・ある意味では,作者が作った世界の中だけを遊ぶことになるため,コンピ ュータそのものに対する理解を深めることにはならない。しかし,逆に言        えば, コンピュータ独特のいろいろな決まり事をできるだけ意識しないで 数学的に遊ぶことができる。       ・ソフトは授業の仕方を制限してはいないので,そこは自分の責任, あるい は自分が独自の結果を主張できる部分と考えて使うこと。 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |        4.Geometric Constructorを使った授業とは         | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+  4.1 最も基本的な事例としての「四角形の4辺の中点を結んでできる四角形の性質」 (マニュアル1 参照) 4.2 一斉指導の中でコンピュータを使うことの意味 (1) 同じ現象を観察しながら議論すること (2) ソフトの基本的な機能を提示すること (3) 基本的な使い方,探究の仕方を提示すること   4.3 ツール型のソフトの場合, 「すべての機能に慣れる準備をしなければ使えない」 ということはない。 ・目的に応じて必要最低限の機能だけ絞った使い方   4.4 授業の方法, 形態は何種類もある。      +−一斉提示     ・+−個別追究    をうまく組み合わせること      +−プリント作成     ・  先生がコントロール ←−−−→ 生徒がコントロール                様々なバリエーション   4.5 いくつかの利用法     (1) プリント作成等のための正確な図を描く     (2) 動くOHP として使う (一斉指導)       ・事実を観察させる ・「調べ方」「観察の仕方」の提示でもある ・「議論」の場である。 ・まとめの場である。     (3) 個別の探究のための道具として使う       ・目的と場面を限定して,必要とされる知識を最小にし,利用効果を最大に する。       ・コンピュータ任せにするのではなく,人間を最大に利用する。       ・議論を大切にする。       ・これまでの教材研究とは異なる観点からの教材研究を行う。       ・臨機応変に対応できる対応策, 心構えを準備しておく。       ・「通常の授業の延長線」として考えていく。 ・ソフトに対する評価や付き合い方を教師も生徒もできるようになっていく   4.6 教材開発のプロセス     (1) 作図ツールにより可能になる解決事例の発見 (2) 調べ方の明確化 (3) 議論させる内容の明確化 (4) 問題の再定式化, Situation 化 (5) ワークシートの作成 (6) 類題の追究 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |       5.Geometric Constructor を用いた教材研究の段階       | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+   5.1 通常の授業形態で学習したことの「まとめ」として動きを提示すると分かりやす     くなる事例について使ってみる。    ・教科書傍用ソフトと同様のことを汎用ソフトで行うことになる。     ・みんなで1台を観察するので十分。5分程度で十分。  5.2 教科書の中の「動かして追究することを前提にした問題」について使ってみる。     ・教科書傍用ソフトと同様のことを汎用ソフトで行うことになる。     ・教科書は,ソフトなしでも可能な範囲の追究を行っている。     ・問題の発見と解決のアイデアの発見に焦点を当てる。   5.3 入試問題などの考え方の解説として使ってみる。     ・入試問題では,静的な図が与えられても(頭の中だけで)動的に考え,処理す      べき問題などがある。それを実際に目で見える形にしてみる。   5.4 道具を変えることによって,問題の解決・発展がどう変わるかを検討し,それを     前提にした問題を開発する。     ・全く同じ課題でも,教具・提示法が変わることによって,その難しさ,解決・      発展の様相は全く変わってしまう。       通常の教材研究においても,そのような吟味をしているはずだが,同様のこ      とを,より深く,より広く行うことが必要であり,また可能である。       (コンピュータも一つの教具であって,特別な存在ではないことに注意する      こと。コンピュータ室を使わなければというようなことを考えるのでなく,他      の教具も選択肢の一つとして考える方がいい。   5.5 多くの問題場面で適用可能な探究プロセスを抽出し,その教授可能性を検討する     ・「ツール型」のソフトでないとできないこと。     ・逆に,「ツール」の開発は,      (1) 「ある問題の追究に重要なのに素手ではしにくいこと」を可能にするプロ セスを考える。      (2) そのプロセスは,他の問題の追究にも汎用的に使えるかどうかを検討する      (3) そのプロセスを実現する機能とインターファイス等を設計し実装する。      (4) それを使っていろいろな問題を追究してみて,役に立つかどうかを検討す る。      というプロセスを経るのが一般的である。つまり,作り手にとっては,自分に とって,探究を助けてくれるプロセスを他人にも利用可能になるかどうかを検 討することに相当する。       しかし,できてしまえばソフトは一人歩きをするのであって,様々な利用法      をどう発見し,それを楽しむかは利用者すべてに開かれている。 +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |             6.授業研究の楽しみ方              | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+  6.1 見せるための「模範授業」「研究授業」ではなく,授業本来の可能性を探るため     の「授業研究」    ・数学本来の面白さをどう引き出すか。     ・生徒の自主性をいかに引き出すか。      など,  6.2 「ベテラン」がいない「コンピュータを使いこなした授業」     = 未知の可能性と多くの改善の余地のある領域     = おしきせの議論でない授業検討会    ・これまでにない授業ができる可能性    ・通常の授業の醍醐味にはほど遠かった, これまでのコンピュータの授業   ・同じ問題場面を簡単に再現できるはず    ・誰でもいろいろと意見交換ができる (はず)   6.3 気軽にVTR を使うこと    ・VTR は特別な授業の「記念」ではない。     ・自分を客観的に見るための手段としてのVTR     ・蓄積し,交換し,比較・検討して自分の資料としてVTR を使いこなす     ・授業だけの記録ではなく,検討会も記録すべき。     ・前から写すと生徒の顔がよく分かり, 教師の目からの景色が分かりやすい。     ・ついでに,授業後に生徒に感想も言わせてしまう手もあるらしい。     ・冒頭では月日を,それ以降は時刻を入れておくと後で使いやすい。   6.4 「修正しながら何回か授業を行うことを前提で考える     ・1度だけではうまくいかないことが多い     ・1度だけでは見えないことが多い   6.5 事後検討会だけでなく,事前検討会も効果的    ・何に注目して授業に臨むかが明確になる (授業者, 参観者とも)    ・仮想的に授業を実施するのと同じ効果   6.6 新しい授業のパターンを発見し,それが使える教材を蓄積すること   6.7 特にコンピュータを使う場合には, (1) 他の教具等の場合との比較を明確化すること (2) 他にどんなソフトがあったらどんな可能性があったのかを検討すること (3) 使ってソフトの機能等を再検討し,ソフトの改良点を指摘すること +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+ |           7.より本格的な教材研究のために           | +−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+   7.1 本格的な教材研究とは     教科書や学習指導要領等に「あるから」という拘束とは無関係に,素材そのもの     と向き合って,その素材本来の教育的な意味や数学的な面白さ等を吟味し,その     素材をうまく生かせるような教材にすること   7.2 本格的な教材研究がなぜ必要か。    ・一般に,道具あるいは教具が変わることによって,生徒が感じる問題あるいはそ     の解決や発展の様相は大きく変化するが,コンピュータによる影響は,他の教具 による変化と比較して,非常に大きい。    ・たとえば,教科書の問題の解決にそのまま使っても, ミスマッチにしかならない ことも少なくない。    ・長期的には,カリキュラムの再考が必要なほどである。    ・コンピュータは,これまで以上に,より深くより長時間の個人追究を可能にする    ・コンピュータによって提示される現象等について議論すること, そしてそれぞれ     の場面で次に何をするかを意志決定したり,自分が考えるべき問題を考えること などを教育の対象とすることができるようになる。    ・しかし,それらに関する情報の蓄積は少ない。   7.3 本格的な教材研究をどのように行うのか。     (1) 長期的な問題として考えること。     (2) 「自分自身が」数学をすることを楽しむこと。     (3) 「数学をしている自分」を観察し,記録すること。     (4) 自分の経験を生徒が再体験できるようにするにはどうしたらいいかを考える こと。   7.4 具体的な教材研究の進め方     (1) 教科書の問題を,コンピュータの中で実現し,「指導の意図」などとは無関 係に,自分なりに追究してみること     (2) 定理のみではなく,それに関連する様々な問題やその経緯などが書かれてい る本を選び, コンピュータを使って考えながら読むこと。       いろいろな定理をつまみ食いするよりも,一つの事例をじっくり考える方が いい。      例: 秋山武太郎「幾何学つれづれ草」, サイエンス社         乾 東一 「図形の性質の研究」, 啓林館, 1993    (3) 身の回りの現象をコンピュータでシミュレートして, いろいろなことを調べ てみる。計算不可能な現象でも,仕組みさえ意識すれば,具体的な様子を計       算結果から見ることができるようになるので,これまでは考えても数学的に 処理できなかった問題を身近に考えることができるようになる。       例: バスの二つ折りのドア, ピストンの動き, 日食の様子, ワイパーの動き     (4) 教材研究の方法論が明確な本を参考に,自分なりの教材研究のスタイルを確 立する。       例: 島田茂「算数・数学科のオープンエンドアプローチ」, みずうみ書房            「教師のための問題集」, 共立,1990         前田隆一「算数教育論」, 金子書房   7.5 ネットワーク作りのお勧め     意見交換が自由にできるようなネットワークを,職場, 地域あるいは他県の人々 との情報交換の人的ネットワークを作ること。                                (以上)