愛知教育大学数学教育講座飯島GC Forum各種講座の書庫


高校数学における作図ツール・インターネットの利用について

- 第39回北数教数学教育実践研究会にて -
2001.12.01,
愛知教育大学 :  飯 島 康 之 
yiijima@auecc.aichi-edu.ac.jp


概要



0.はじめに

0.1 私はどういうことをしている人間か(自己紹介を兼ねて)

0.2 今回の特徴

2000/2001年度にわたって,「作図ツールコンソーシアム」として,文部科学省の「学習資源デジタル化・ネットワーク化推進事業」の一部の委嘱事業に関わっています。
現在の進行状況をお伝えしながら,2005年までに,学校でのコンピュータ利用やインターネット利用はどう変わるかを,「実感」していただけるようにしたいと思っています。
また,第二クール現在でのコンテンツを収録したCD-Rを用意しました。それぞれの学校にお戻りになってからも,ご利用いただければと思います。

なお, 本資料は, 今年度これまでいくつかの教育センターでの講座で利用した資料を踏まえつつ, 「0」と「6」を拡充したものです。当日触れることができない部分や, 中学校の先生方を想定していて,高校にはあまり適していない部分もありますが, 資料としてご利用いただければと,そのまま掲載しています。また, ここにはなくても当日アドリブで補充する部分などもありえますが,ご了承ください。

0.3 高校の先生方に向けて

私は,仕事の関係上,中学校の先生方にお話する機会が最も多く,ついで小学校, そして高等学校ということになります。研究領域の関係で言えば,中学校とほぼ同じくらい高等学校に関連する可能性があるのですが,なかなか実際の接点を持てることはあまり多くありません。
一方,高校の卒業生という意味での学生に接する機会は当然多くあり,入試関連をはじめ,高校教育のあり方等について考える機会はよくあります。そのようなこともいくつかお話したいと思っています。

0.4 「前向きの可能性」を考えていこう

今回の学習指導要領の改訂に関しては,いろいろな意見があります。算数・数学に関して標語的に語られる「3割削減」は妥当なのか。基礎学力が低下するのではないか。いろいろな議論があります。たしかにそういう否定的な部分も多いでしょう。しかし,もっと楽観的に,そして積極的に考えましょう。今までできなかったことが可能になる可能性が非常に大きいのです。カリキュラムも選択の幅が広がり,生徒にあった内容を整備できる可能性は広がりました。総合的な学習などでは,先生方が内容も自由に構成できる権利を得ることができました。これまで,「学習指導要領ですべて決められている中では何もできない」というぼやきがよくありましたが,今回の改訂ではかなりの部分が先生方に「任されている」のです。

大学入試も同様です。これまで,普通高校のかなりの割合の学校では,高校数学は「大学入試のための道具」という性格が非常に強かったのは事実です。先生方が考える「数学」にあっているかどうかは別として,一定数の学校では,受験数学のトレーナーが数学の先生の役割だったと思います。18才人口の急激な低下は,「どこでもいいなら誰でも入れる」時代に変化し,「勉強しない高校生」を生んでいるのも事実であり,「受験のため」というお題目は生徒を数学に向けることはできない状況を生んでいると悲観する声もあります。

しかし,考えてみてください。今学んでいる受験数学は,今後どの程度の生徒にどの程度の有効性を持っているのだろうか。その副産物として生成している多くの数学嫌いの学生たちにどれだけの悪影響を及ぼしているのだろうか。数学は現在の社会の中では,役にたつのだろうか。彼らは数学を explicit であれ, implicit であれ, 社会に出てから使うのだろうか。

「使う」のです。理系であれ,文系であれ,いろいろな場面で「使える」のです。その「使い方」は,受験数学の中での使い方に限定されるわけではありません。彼らが生涯にわたっていろいろな数学を「使える可能性」を確保することがまず第一に重要ではないかと思います。
そして,彼らは「必要に応じて学習したいと思ったらいつでも学習できる」環境を持っています。コンピュータにしろ,ネットワークにしろ,「学びたいと思ったらいくらでも情報を引き出せる環境」です。在学中だけ学習し,その後は「なし」というようなご時世ではありません。私たちが学生時代に考えていたような意味とは別の意味で,「生涯学習」はもう現実のものになってしまっているのです。

そういう時代の中で,最もよくないのは,「数学はきらいだ」「数学なんて役に立たない」「四則計算くらいしか社会では使わない」と思うことではないでしょうか。

「これはどうなるんだろう」という疑問を持ったとき,今までであれば,「数学の知識」や「計算力」と「時間」と「労力」がなければ数学に接することができなかったのが現実です。しかし,コンピュータなどが,それをかなり支援してくれます。そういう道具を使うことによって,本来数学者しかできなかったようなことを体験したり,いろいろな問題に数学を応用することができたりする。そういう「本来の面白さ・重要さ」をもっと追求し,高校数学のあり方や,数学そのもののあり方を根本から考えることができる「チャンス」が到来した。そう考える方がよいのではないでしょうか。

0.5 「選択してもらう」側になろう

これからの時代はある意味で,「民営化」だと思います。国立大学でさえ,独立行政法人化の波を受けるご時世となってきましたが, いい意味での「民営化」を考えなければならないという自覚を持つということが,これからの時代には必要なのではないでしょうか。
「民営化」と行っても,「私学にすればいい」ということではありません。我々は生徒に知識・技能・関心・態度等の習得を行ってもらうためのサービスを提供する業種です。一般の業界では,「いいものが生き残り,よくないものは淘汰される」。いろいろな面にそういう原理が導入できるようにしようということだと思います。
「受験に数学があるから数学を教えてやる」という殿様商売から脱却し, 「なるほど,数学って面白いんだ」と選択してもらえるように営業努力をする。そういう姿勢に変えることは不可欠ではないでしょうか。

0.6 「つくる数学」,「使う数学」

これは受け売りですが,杉山先生(早大)が,「つくる,わかる,できる,使う」という4種類の数学の中で,これまでは「わかる,できる」ばかりをやっていた,これからは「つくる,使う」が重要だとおっしゃっていますが,私も同感です。
そして,「つくる」数学や「使う」数学では,いろいろな数学的体験が不可欠ですが,まず,先生方がそういう経験をし,そういう数学観を持つということが重要なのではないかと思います。
そして, 実はそういう数学のための「素材」が, まだまだ足りない。あるいは, そういう数学は「書かれた」ものから学ぶだけではなく,自分たち自身で議論し,作っていくことそのものが重要だという側面が強いのではないかと思います。「情報化」の時代は,先生方自身が主役になり,そういうことを日常的に可能にしてくれるという意味で,実は非常に大きな可能性を持っている21世紀に我々は遭遇していると考えられるのではないかと思っています。


1.教育の情報化

1.1 コンピュータ利用・ネットワーク利用は,2005年に向けて大きく変わる

つまり,2005年を想定すると,

  • 「学校のインフラ」としてのネットワークは十分な形で整備されている
  • コンピュータを使った授業をする場合,「普通教室でコンピュータとプロジェクタを使う形態」ならば,先生自身が「使う方が便利」と思えば,いつでも使えるようになっている。
  • もちろん,コンピュータ室で個別の作業をさせたい場合には,それを使うこともありうる。

ということが,具体的な施策として決定され,予算化され, 逐次進行している。

1.2 「教科教育」でのコンピュータ利用

特に我々にとって特徴的なのは,「総合学習」のみでなく,「教科教育」,つまり通常の授業の中でいろいろな形で使うことが想定されていることだ。もちろん,実際には,現行の教科書はコンピュータ利用等を想定せずに書かれている部分がほとんどだが,それは一方では,「使えない学校もあるはずだから」という理由もある。「どの教室でも,2台のコンピュータを使うことができるはず」という前提があれば,いろいろな形で教科書や資料が変わって行くことも十分に考えられる。

1.3 基本は「プロジェクタを使った」「解説型」,「問題提示型」の利用

逆に言えば,今回の「教育の情報化」は上の程度のものでしかない。つまり
ということを考えると, 中心になるのは,普通授業の中で「解説」や「問題提示」のために使う使い方が中心になる。「掛け図」の代わりに動画教材等をネット上から持って来て使うというのが,全体的に多い使い方かもしれない。しかし,算数・数学の場合,そのようなVTR的な動画の必要性はそれほど高くないため, 問題提示型の利用の方が中心になるのではないかと思う。

1.4 私の周りにはもう2005年はやってきている

余談であるが, 実は,2000年度から教員免許法の改正に伴って,教員養成系大学のカリキュラムは大きく変化した。私のところでは他の要因もあるのだが,この4月から大きな変化が始まっている。
いわば,2005年がもうやってきたような雰囲気である。それに伴って,授業だけでなく,いろいろな試みを試してみている。

1.5 世の中の変化はもっと速い

しかし,より冷静に考えれば,企業や社会の中の情報化は非常に速い速度で変化している。2005年のネットワークの主役はパソコンではない可能性も高い。ケータイ, PS2などによる情報化の進展は時間の問題である。
光ファイバーによる常時接続, 既存の電話線によるADSLでの常時接続などもあっと言う間に, 広範囲で, 低価格で実現されようとしている。これまで, 大学などでは年間数百万を支出して確保していた回線が家庭でも実現しつつある。
つまり,「2005年までの目標って,この程度のことしか考えなかったんだって」と言われてしまいかねないほど,世の中でのインターネット関連のインフラは整備されつつある。

1.6 とりあえず,「2005年」を標準と考えるならば,「これをどう生かすか」

しかし, 理想像のみを議論しても始まらない。「しなければならない明日の授業」があるのも確かである。未来は明日の延長線にしかない。「明日できること」をこの講座では考えよう。
この講座での「明日」というのは,とりあえず,「2005年現在」である。
少なくとも,次の環境は揃っているとする。そのとき,あなたは何をどう活用するだろう。

すべての普通教室にネット接続可能なコンピュータが使える。
場合によっては,プロジェクタが使える。
学校に一つ,コンピュータ室があり,一人一台の環境で使える。
職員室等でネットワークに接続された「自分が使えるコンピュータ」がある
インターネット上に,あるいはCD/DVD等の形で様々なコンテンツ・ソフトがある
いろいろなテーマ別のメーリングリスト(ネット上の会議室)などがある
全員が必修のカリキュラムがあると同時に,教師自身が工夫可能な時間(課題学習・選択学習・総合的な活動等)がある
ネットの向こうにはいろいろな人がいる。


2.作図ツールコンソーシアムのコンテンツ開発に関連して

2.0 配布した CD の内容とその目的

作図ツールコンソーシアム文部科学省による学習資源デジタル化・ネットワーク化推進事業の一部として,参考にしていただく
GC World 2GCでどういう問題を扱えるのか,どういうことができるのか等を理解していただく
GC/Java上記の二つの内容はすべてCDのみで利用できる(GC/Javaを使っているため)。Javaによるソフト開発の実際の可能性あるいは限界を感じていただく
GC/Win個々の機器にインストールする必要がある場合にはお使いください。現時点では,データの保存等はGC/Winでないとできません。

2.1 (背景)文部科学省によるコンテンツ開発

「教育の情報化」に関わるコンテンツ開発の中の一つが,生涯学習政策局,学習情報政策課による「学習資源デジタル化・ネットワーク化推進事業」であり, そこでは, 教科書に準拠し, 授業を分かりやすくするためのコンテンツ開発を17のプロジェクトが実施している。その一つは, 「作図ツールコンソーシアム」による事業である。(算数・数学関連が,他に二つある)

この事業は2000-2001年に行われるが,それらが想定している姿は, 学校で「当たり前の道具」となったネットワークを経由して, 「教科書に準拠したさまざまなコンテンツ」に気軽にアクセスできる姿である。通常は, コンピュータ室ではなく, 普通教室で使う。つまり, 一人一台の使い方ではなく, 教室に1台(あるいは2台)ある, (ネットワークにつながっている)コンピュータをプロジェクタで投影し, 問題場面を提示したり, 議論をしたり, あるいはまとめたりするような使い方である。授業の中で,必要な部分だけ使う使い方である。

当然,想定しているのは, 「今までコンピュータを使っていなかった先生」も含めて,使おうと思う場面では気軽に使うことであり, 「その気になったら誰でも, (ネットワークがつながっているところでは)どこでも, 気軽に使える」ことを目指している。

2.2 (背景)作図ツールコンソーシアムとは

飯島を代表として, 大学・企業・中学校の先生方(合計約70名)で構成するコンソーシアムで, 中学校の数学の教科書(啓林館)に準拠したコンテンツを開発している。
第一クールから第三クールまで,意見聴取→開発・改良のサイクルを進めていく。
現在,第二クールのコンテンツの段階で, 完成品ではないが, その内容は,随時WWW 経由で,正規メンバーはもちろん, だれでもアクセスできる形で公開している。

2.3 今後,順次整備される「教科書準拠のコンテンツ開発」

このコンテンツは,啓林館の中学校の教科書に準拠して内容を構成している。ある意味では,「教科書準拠」であるための不都合も多い。しかし, 内容をより整備し,使いやすいものに改良していくことを前提として考えた場合,「普段の授業で使うためには,多くの先生方にとっては便利なコンテンツ」ということになるのではないだろうか。
文部科学省の説明では, いずれ,すべての教科,すべての教科書に関して,このようなタイプのコンテンツが整備されることを想定しているとのことである。
本コンテンツは, いずれ整備される「教科書準拠のコンテンツ」のサンプルとしてごらんいただきたい。

なお, 17のプロジェクトの中で,インターネット上で公開されているのは, 算数・数学に関わる3つである。(検索等で探してみよう)

2.4 Javaで開発されたソフトのサンプルとして

2.4.1 気づいてほしいこと

お配りしたCDあるいは作図ツールコンソーシアムのホームページ(http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/dgs/)にアクセスすると, トップページ,目次,それぞれのコンテンツにアクセスすることができ, メインコンテンツでは, 左側に教科書に掲載されている文などが, 右側には作図ツール GC/Java で, 標準的な図が表示される。緑丸の点をドラッグすると, 図形を変形することができる。

「なんだ当たり前ではないか」と思われるかもしれない。裏方の技術的なことだから,意識化する必要はないといえばないのだが,少なくとも数学用の本格的なソフトに関して,こういう使い勝手のものはなかったのである。

2.4.2 Java アプレットとは

このコンテンツは,「Java アプレット」として開発されたソフト GC/Java を使って構成している。Javaって,こういうものだということを実感していただきたい。
Java アプレットとは何か。大まかな特徴を挙げると,

2.4.3 Java アプレットで開発することの意味

コンピュータはいろいろなことができるように,ソフトをインストールすることができる。しかし,それを自由にできるようにすると,教育用のように,不特定多数の人が使うコンピュータはあっという間に「使い物にならなくなる」。そのため, 現在導入される多くの教育用コンピュータは,勝手にソフトをインストールすることなどできない。
これはいいことばかりではない。ソフトのアップグレードや追加も難しい。導入時の環境を数年間継続しなければならないが,その間に陳腐化してしまうのだ。
一方,Javaのソフトは,サーバの側で管理することができる。改良したものに入れ換えることもできるし,追加することもできる。コンピュータの側で用意すべきものは,

だけでいい。コンピュータが壊れたら,購入時点の状況に戻すだけで,「また使える」ようになる。いや,コンピュータである必要もない。Javaが動くブラウザがあればいい。1年もすれば, PS2でJava対応になるはずだ。そういう機器だって十分使えるようになる。

つまり, Javaアプレットで開発することの意義を簡単にまとめると,


そのようなことが少なくとも作図ツール程度のソフトに関してはもう十分に実用化しているということをご理解いただきたいと思う。
Javaによる開発が今後の標準として定着するかどうかは分からないし,よりよい技術も開発されるかもしれないが, Javaが持っているような利点を引き継げるような形でのソフト・コンテンツ開発を, ユーザーの代表である先生方が要求するということは必要なのではないだろうか。

2.4.4 GC/Java はまだ未完成

ところで, 現在の GC/Javaはかなり実用的な段階にまで達しているが,まだ未完成の機能もかなり残っている。いずれは, GC/Winとほぼ同じ程度まで機能を拡充できればと思っている。

2.5 このようなコンテンツは, 「万人向けの入り口」であると同時に,「そこから先」もある

2005年までを想定すると, このような形で「教科書等に準拠し, 授業の中で気軽に使えるようなコンテンツ」は,時間と共に増えていくと思う。それを中心的に開発するのが教科書会社になるのか, 別の機関になるのかはわからないが, 「紙」媒体としての教科書を補充するものとして,「ネットワーク上のコンテンツ」はさまざまな広がりを持っていくと思う。
そして,おそらく大半の先生方にとっては,「ネットワークを使う」というのは, そのような形で提供されるコンテンツを使うことになるのではないかと思う。

しかしまた,そのような形がネットワーク利用がすべてではない。それらを「万人向けの入り口」とすれば, それを一つのきっかけとして,さらにより広く,より深く,いろいろな形で教材等や人々の輪を広げていけるのが,ネットワークの本来の魅力であり,あり方である。ネットワークが当たり前のものとして定着していく中で, その使われ方は次第に変わっていくのではないだろうか。

2.6 鍵を握る「提示型の授業」のノウハウ

2005年までの「教育の情報化」での授業では,
「ネットにつながったコンピュータをプロジェクタで投影し, 問題提示や議論をする」
ことが主役である。
個人的には,コンピュータ室の増加や充実よりもずっと効果的だと思うが, 実はこのような道具を使って問題提示や議論を効果的に行なえるノウハウを持っている方はまだまだ少ないのが現実ではないかと思う。
さらに言えば,プロジェクタは「研究発表用の道具」であって,「日常的な授業の道具」として認知されていない学校も多いのが現実である。この壁を乗り越えないことには, 2005年バージョンの「教育の情報化」は授業実践にはまったく影響なしということになりかねない。
いや,一歩下がれば,それ以前に,
「問題提示や議論を中心とした授業」
そのものがどの程度認知されているのかという問題さえある。
そのノウハウを蓄積することが,2005年までの教育の情報化の成否の一つを握るのである。


3.コンピュータによって数学的活動はどう変わるのか

3.1 「標準的コンテンツを見せる」ことから次の段階への第一歩

現在進んでいるコンテンツ開発は,すべて「現行の教科書」を前提としている。コンピュータの機能を使えば,もっといろいろな教育目標や内容を扱える可能性があるのは事実だが,それはしていない(それは文部科学省による委嘱における方針)。そのことに関しては,いろいろな意見があるかもしれないが, 現在の教育が,学習指導要領に基づいて,検定教科書等を利用して行われているわけだから, その枠の中でコンテンツを作り,「今」の授業の中で使ってもらうというスタンスは, 「すべての先生に使ってもらうべきもの」としてのコンピュータやネットワークを考える場合には,妥当な考え方だと思う。
しかし, それらに触れながらも「こんなことももっとできるんじゃないか」と思われることがいろいろと出てくるのではないかと思う。紙と鉛筆等を前提として構成されているのが現在のカリキュラムであり, 実はいろいろな制約の中で現在の授業は実施されている。道具が変わることによって,そのような制約がなくなるものも少なくない。それを感じるところから,「次」の段階が出発することになる。

3.2 「速く正しく答えを出す」ことも大切だが, それ以外の数学の魅力は何だろう

この内容に関しては,議論してみましょう。

3.3 コンピュータで正しい結果を速く計算してみせる。「どうだ」...「だからなんなんだ」

コンピュータでの提示は,一見簡単である。コンピュータの得意分野のデモをすればいいように思う。しかし,意外な展開になることが多い。つまり,「どうだ」と得意になって先生が見せても,生徒からの反応は「だからなんなんだ」というさめたものになっていることが少なくない。
なぜか。
それを出発点にして,生徒が「すべきこと」がなければ,「だからなんなんだ」が当たり前なのである。
つまり, コンピュータで提示するというときには,それを観察する生徒に「何をしてほしいのか」をきちんと設計しておかなければいけない。コンピュータを「下手に」使う方がずっといいこともある。わざと間違えさせる方がいいこともある。
中心になるのは,「生徒の」数学的活動であり,コンピュータの数学的作業ではないからだ。

3.4 プロジェクタと生徒の反応の多様性

コンピュータの使い方は多様だ。一人一台でなければ意味がない使い方もある。日常的に使えるのが普通教室の「コンピュータ+プロジェクタ」だとすると,その基本的な使い方を分析しておく必要があるだろう。
基本は,

の二つである。
つまり,分かりにくかったことを分かりやすく提示することと, 同じものを見ていながら,その理解や解釈,次にしたいことなど,様々な事柄は生徒によって千差万別だということである。
「分かりやすく提示」という側面と同時に,「十人十色」の発表の場として,プロジェクタはとても適していることを理解しておこう。それを使って生徒に説明させたり,議論させたりするとき, 「みんなが見る大きな画面が一つある」というのは, 一人一台のコンピュータが整備されているよりもずっと授業としてやりやすいことは多いのだ。
逆に言えば,プロジェクタ形式でのコンピュータ利用の基本的な認識は次の点にあると言えるだろう。

3.5 作図ツールによる活動(試作中)

「コンテンツはあってもどう目的でどう使えばいいのか分かりにくい」
これが作図ツールコンソーシアムでの第二クールまでのコンテンツ作りに関する一つの反省点です。
そこで,今行っているのは,「作図ツールの活動」を分析・整理し,分かりやすくしてみようという試みです。試作中なので,先生方に配布したCDの中には収録していませんが,インターネット経由でならば,利用できます。
いくつか使ってみましょう。

3.6 GC World 2

上記の作図ツールの活動を明確化しながら,並行して試験的に行ってみたのが,既存のGC World での「問題・探究事例」の再構成とGC/Java化です。まだあまり多くの例はありませんが,「有名な定理」などは楽しめるかもしれません。


4.作図ツールの楽しみ方と授業化の糸口


5.その他の試み

− 時間の余裕と,必要性,そしてご希望に応じて,扱いましょう。 −

6.これからのコンテンツ開発に向けて

6.1 小・中では教科書準拠のコンテンツ利用が標準?

予想ですが,小学校や中学校では,教科書準拠のコンテンツ利用がまず出発点になるでしょう。しかし,高校の場合,これがどの程度期待できるか疑問です。

特に,「何が適切かは,学校によってかなり変わる」と思います。

6.2 いいものをネット上にみんなで「作ろう」

かつて,いろいろな先生が「自作ソフト」を作りました。現在,教育センター等の高校数学の講座でよく使われるのは Grapes と GC ですが, 両方とも無料で使えるという利点もありますが, 両方とも多くの先生方に育てていただいたからこそ,多くのユーザーを持っているのだと思います。ソフトは作り手が勝手に作り,使い手が勝手に使うというものではありません。それで何をしたいかを互いに模索し,連携をとりながら育てていくものです。
ネットワークがない時代でさえ,いろいろなことができました。現在はソフトを自作する人などほとんどなくなってしまった観がありますが,「ソフト」を作って公開しなくても,もっと効果的なものを,先生方のやりやすいところで作れます。それは「コンテンツ」です。
「コンテンツ」をみんなでいろいろなものを作り,整理し,そして使えるようにする。それが日常的に行えるようにすることが, 重要ではないかと思います。

6.3 問題やデータがなければ,ソフトだけあってもだめ

ソフトだけあってもだめということです。
問題だけあってもだめです。
問題と道具(ソフト)をペアにして, 問題についてより詳しく考えたければ,「このボタンを押すだけ」で,自動的に使えるようになる。そういうコンテンツを「教材」の延長線で数多く作ることです。
そして,それをする中で,「数学教育の中で使うべき,標準的なソフト」を確立し,それらについてはより使いやすい形に変えつつ,コンテンツも蓄積していく。そういうことを具体的に進めるべきではないでしょうか。
それをするために,次のような方法をとることができます。

6.4 いずれは,カリキュラムの自主開発など

「教材群」などが蓄積されていけば,次第に,それらは「単独の授業」を形成し,「数時間の授業」となり,「単元」を形成するようになる。それらが育つことが,本来の意味でのカリキュラムの自主開発につながっていくはずだと思う。


7.学校やご自宅からアクセスしてみるには

愛知教育大学数学教育講座http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/
GC Forumhttp://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/teacher/iijima/
作図ツールコンソーシアムhttp://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/dgs/