平面幾何に関わる使い方の可能性全般を考えるとしたら,非常に膨大なものになってしまいます。そこで,ここでは 5心に焦点をおき,関連することをいろいろと並べてみようと思います。具体的な素材はたとえば外心について記述していますが,同様のことを,「内心」に「移植」することができますから,それぞれ,演習問題として,アタックしてみるのも手かもしれません。
高校で「きちんと作図してみる」ということは,ほとんどないかもしれません。フリーハンドでラフに描いた図を見ながら,論理的に考えるというのがほとんどかもしれません。しかし,幾何の一つの出発点が図を描くということは,高校の場合でもやはり妥当なことでしょう。「図をきちんと描いてみる」ことは,決して簡単なことではありません。たとえば,「内接円をきちんと描く」のは結構大変なことです。九点円をいろいろ描いてみようなどと思ったら,かなりの時間がかかるかもしれませんし,「いろいろな場合を調べる」ことも実質的にはほとんどできないかもしれません。
「ちょっと実際にどうなのか,見てみようか」
と,授業の合間に作図してみたり,ファイルを呼び出したりして,それを変形し,「どんな場合も成立すること」を確認したり,「特別な場合にしか成立しないことを確認したりする」というのを,単元を通して観察するだけでも,かなり幾何の印象は変化するのではないでしょうか。
「確認」の次への入り口は,「調べる」ことだと思います。「○○となることを証明せよ」等の問題を,調べる問題に変えてみることだと思います。
たとえば,5心に関連して,それらを「特殊な条件が成立する場所」としての特徴づけから考えましょう。
「そういう条件を満たす点はどこにあるか」
問題をこう逆にするだけで,調べる問題にすることができます。
外心 | 3つの頂点から等しい距離にある点 | |
内心・傍心 | 3つの辺から等しい距離にある点 | |
重心 | 3つの三角形の面積が等しい点 | |
垂心 | ? |
調べるときに,どんな図を与えるかによって,その調べ方やかかる時間,また発見することなどはかなり変わります。たとえば,次の図は外心に関わるいくつかの図を作ってみたものですが,それぞれ,どのように異なるでしょうか。
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一般に,これらの問題の解は試行錯誤を経ながら見つかるわけですが,そういう点を見つけたらOKというわけではありません。論理的に,それはどういう点なのかを説明できることが必要であり,それを授業の中でどう組み込むかが不可欠です。
たとえば,外心の場合,辺の垂直二等分線をどういう形で出すのか。2点から等しい距離にある点の集合というのを,どういう形で観察するのかなどが,問題となります。
また,「逆」問題ですから,問題によってはその解が最初に想定していたもの以外に広がるものもあります。たとえば,「内心」の条件づけとして3辺からの距離が等しいことを考えたとしたら,それを逆にすることによって,「傍心」も登場してくることは典型的な例でしょう。
また,このような形で,「調べてみる問題」を作ってみると,その条件を少し変えたらどうなるかと,「気になる問題」も広がってくるのも事実です。授業の前の教材研究の一貫として,楽しんでみるというのも一つですし,そういう楽しみ方そのものを生徒に提供するという手もないわけではありません。ただし,そこを授業で扱おうと思うと,それなりの準備と覚悟がいるでしょうが。次にいくつかの例を挙げてみます。答えが適切にあるものもあれば,特徴づけがきちんとできないものもあるかもしれません。
3つの頂点からの距離の和が最小になる点 | |
3つの頂点からの距離のの2乗の和が最小になる点 | |
Pの回りの3つの角が等しくなる点 | |
3つの四角形のが等しくなる点 | |
赤い三角形の面積が最大になる点 | |
赤い三角形の面積が0になる点 |
また,ここではあまり詳しく触れませんが,5心のそれぞれについて,三角形のある頂点をある動きをさせたときに,その軌跡を調べる課題も,「動くことが自然」と思える環境でそれらを観察すれば,自然な課題として捉えることができるでしょう。
軌跡の観点からも,内心・傍心を統一的に扱うことの妥当性も実感することができます。
いくつかの登場人物を「組み合わせてみると」どんなことが起こるのか,そういう観点も導入することもできます。
最も典型的なのは,「いろいろな心を併置する」問題でしょう。Euler線が一つのターゲットということになりますが,それ以外にも,「2つだけ一致することはあるのだろうか」「どれがどれだろう」「なかま分けをしてみよう」など,いろいろな切り口があると思います。
また,もう一つの別の特徴的なものは,内接円,傍接円と九点円との不思議な関係でしょう。これらは,証明ぬきに,観察するだけでも,初等幾何の美しい一面を感じることができるかもしれません。
3.6 の中の次の問題に注目してみましょう。
赤い三角形の面積が0になる点 |
「面積が 0 」となるということは,三角形がつぶれること。それは三角形の内部では発生しませんが,三角形の外部に点 P が出ていったときに発生します。そして,それは一点ではなく,いくつもの点で発生します。つまり,「条件を満たす点の集合」としての軌跡をなすことになります。
一人一台等の環境の場合には,「そういう条件を満たす点を探してみよう」と発問することも一つの手です。生徒は自分なりの答えを見つけますが,その集合は一点ではないので,生徒によって,見つける位置が異なります。すると,
「他の人はどんな点を見つけたか,それぞれ覗いてみよう」
「どうもたくさんあるようだが,一体,全体はどんな形になるのだろう」
という流れを形成することができます。
また,一つの手としては,それらを OHP シートにうつし,それを重ねて観察するという方法もあります。
なお,すでにお気づきかと思いますが,この問題は,シムソン線に関わる問題を,別の形で提示するということに相当しています。
問題もそれぞれ別のものとして扱い,解いて行くというのも,一つの方法ではありますが,ある問題を発展させながら,これはこういう数学的内容で本質的には教科書のこの問題なんだ,というようなアプローチもありうるかと思います。
初等幾何の部分は,どの問題に関しても,少し工夫をしだすと,いくらでも展開があってきりがないです。今回は時間切れでこのあたりで終わりにしなければなりませんが,続編等も検討していきたいと思います。