第29回数学教育論文発表会
口頭発表の部
                WWWを使った数学教育情報の共有の現状と可能性
                 -Geometric Constructor に関する試みを中心に- 

                                                                飯島康之
                                                              愛知教育大学
                                                                佐野晶子
                                                              愛知教育大学大学院
                                                              

0.はじめに

  インターネットの急速な普及に伴い,WWW(W
orld Wide Web)を使った数学教育に関する試
みも増えてきた。本稿では,Geometric Cons
tructor に関する試みを例示しながら,その
可能性について検討する。

1.容易な運用とアクセス可能者の存在

  「学校ではまだ使えない」面はあるが,大
学・企業の多くでは, インターネットは「当
たり前」の存在になった。個人が家庭でアク
セスするための経費もかなり低下してきた。
研究者・院生・学生はもちろん,一部の教師
もアクセス可能になっている。
  WWW サーバーも, 新規で, 20〜30万円程度
で可能だ。情報処理センター等のサーバーを
利用可能なところもある。「研究・実践活動
の一環として運用する気」になれば, 可能で
あり,しかも「相手」が存在している。

2.発信者にとっての情報化のメリット

  環境の整備と比較して, 情報発信は少ない。
更新が途絶えたサイトもある。情報発信は, 
「価値あるものを無料で提供するばかげた行
為」という認識もある。公開が研究上の不利
益をもたらす場合も中にはあるだろう。国内
の数学教育研究者人口は少ない。自分の研究
領域に深く関係する研究者は,数人程度だ。
「だから郵便で十分」とも言える。しかし,
公開すれば,見てもらえる機会が増える。関
心を持つ人は増える。メーリングリストの併
用により,様々な議論が日常的に可能になる。
  このような,「情報化のメリット」は発信
者でないと享受しにくい。以下では,具体的
に,Geometric Constructor に関連して行っ
ている試みを挙げながら,WWW を使ってどの
ようなことが可能かを検討したい。

3.資料庫としてのWWW

  少ない労力でも可能なのは,「資料庫」だ。
論文のファイルをサーバーに転送するだけで
いい。当方では,次のものを収集している。
(1) ソフト・マニュアル
(2)  (飯島の) 論文・資料 (公開講座・集中
講義等の資料や授業のテキストなどを含む) 
(3) 関連する研究者・実践者の資料
  現在でも,発行している研究誌の目次を掲
載しているサイトがいくつかあるが,論文そ
のものを公開するサイトが増えれば,ネット
ワーク自身が文字通りの資料庫になる。

4.研究と密接に関連したデータベースとし
    てのWWW

  WWW のHTML文書はハイパーテキストだから
,普通の論文とは違ったことができる。大き
な可能性が,データベースとしての機能にあ
る。データベースと言っても,従来のものと
は違う。論文では,関連する様々なものを表
現しきれない。その関連性そのものを表示し
,全体像と共に具体的な個々の素材にアクセ
ス可能にするものがWWW であり,そういう意
味でのデータベース機能である。
  今回の論文発表で,飯島は「テクノロジー
を用いた数学的探究の研究において注目すべ
き諸変数について−学習環境の変化によって
変わるもの−」という名の発表を行った。
  「テクノロジーの影響を明確化するために
は,それらの様々な変数について,様々な具
体的な事例を収集・分析・議論することが不
可欠である。この作業には多くの人の参加が
必要であり,ネットワークを利用したデータ
ベース構築が有力である。本論では,(1) 『
ソフト』によって変わる数学の特徴,(2)探究
者の行動の変化と多様性,(3)授業者の変化と
いう3つの観点から, そのような変数の候補
を考察した。」というのがその主旨である。
  最近数学教育におけるテクノロジーの利用
の重要性に言及されることが多い。確かに,
様々な既存の研究成果はある。だが,「個別
」の研究の集積に過ぎず, 関連性や具体事例
から見た全体像が分からない。
  上記の論文では,関連性を明確にするため
の試みとして,「注目すべき変数」を検討し
た。論文中では, せいぜい具体例をいくつか
挙げる程度しかできない。だが,WWW を使え
ば,現在ありうる具体例をすべて列挙可能だ
。随時追加可能・修正可能であり,どこから
でも利用可能だ。リンクを張れる素材も様々
だ。指導案であれ,授業中の写真であれ,音
声や動画も可能だ。それぞれは小さな事例で
あっても,それらを一つのまとまりとして「
再構成」することによって,一つのまとまっ
た世界を構築してくれる。その世界全体こそ
,単独の論文では表現できないが,WWW を使
うことで表現可能なデータベースなのである。
  個々のデータの作成も一人でできることに
は限界がある。だが,「だれでも発信可能」
なネットワークの特質は,より多くの人が「
素材」を提供できる可能性を持っている。そ
してまた,それらの素材をいろいろな形で「
再編集可能」なこともWWW の特徴である。つ
まり,素材の利用の仕方をオープンにしてお
けば,同じ素材を別の観点から「データベー
ス化可能」である可能性を持っている。
  現在,Geometric Constructor に関して「
GCワールド」として構築しつつあるが,次の
項目を扱っている:「問題・定理」, 「発問
」,「授業実践」,「GCのテクニック」, 「
数学的探究」, 「授業のテクニック」。
  素材やコメントをできるだけフラットに配
置すると同時に,様々な方からの提供を受け
入れ可能な体制を用意している。

5.メディアとしてのWWW

  WWW のもう一つの側面は,「メディア」で
ある。新聞や雑誌のような,新鮮な情報の提
供である。数学教育で,現在これに該当する
のは週刊などの「数学の問題提供のページ」
である。メールをやりとりしたり, それを公
開したり,双方向的な活動が可能である。
  本サイトでも,最近「Math-Media」を始め
てみた。週刊で「初級, 中級, 上級, 求む道
場破り」という4つのコーナーに1,2 つの問
題を掲載しているがまだ実験的な段階である。
  サイトによって目的は違うが,絞った話題
を定期的に提供することによって,「議論」
を喚起することは共通している。また,メー
リングリストの活用が非常に有効である。
  これらの試みがより一般的になり,様々な
サイトからの情報発信が豊富になることによ
って,数学教育研究・実践が,「それぞれが
孤立して行う, 地域別に行う」段階から,「
ネットワークとして機能する」段階へと移行
しうるのではなかろうか。