飯島[1993b]
「作図ツールの導入に伴う学習活動の変化−中学校の数学の教科書の問題の分析による考察−」
イプシロン,愛知教育大学数学教室, vol.35,1993,50-61

  作I図IツIーIルIのI導I入IにI伴IうI学I習I活I動IのI変I化I
        −中学校の数学の教科書の問題の分析による考察−
                          飯島康之 (愛知教育大学)
                  要    約





        1.研究課題

1.0 これまでの成果と学校教育での利用可能性
  筆者は作図ツール1)の一つとしてのGeometric Constructor 2)を開発してきた。そして,それ
を用いた大学生の問題解決活動や大学生を対象として行ったミニティーチングの事例の収集や分
析を行った (飯島(1991C),礒田他(1992)) 。また,通常の活動では起こりにくいが,作図ツール
を用いると行いやすい問題生成の方略の一つを明確化してきた (飯島(1992)) 。これらの研究成
果は,学校教育での図形指導の場面への作図ツールの導入可能性を示唆するとともに,これまで
には行えなかった活動の可能性を示唆している。

1.1 教科書の問題と作図ツールとのミスマッチ
 しかし,授業での作図ツールの利用を検討すると様々な問題がある。その中の一つは,教科書
の問題をそのまま提示し,その解決に作図ツールを使おうとしても不適合な場合が多い点である
。
  教科書はコンピュータを使わないことを前提にして構成されている。しかし,定規とコンパス
等を使う場合とコンピュータを使う場合では,問題解決の環境が大きく異なっているため,同じ
問題文であっても,生徒にとって「問題」として感じられる内容が異なる。問題解決のために使
う方略も異なるし,問題解決の中で発見することも異なる。そのため,たとえ同じ問題文であっ
ても,それを用いてどのような学習活動が展開可能かは異なるため,コンピュータ利用を前提と
しない展開を想定して構成されている教科書を使った授業にとっては,コンピュータはかえって
邪魔になってしまう可能性が高いのである。

1.2 課題としての学習活動の可能性の分析
  そのため,授業での作図ツールを利用する際の選択肢として, 教科書の問題をそのままにして
,学習活動の展開を考え直す道と,全く新しい問題そして新しいカリキュラムにおける作図ツー
ルの利用を考える道とが考えられる3)。少なくとも現時点においては,前者の方法でも,かなり
の改善の可能性が考えられることと,後者を選択する場合にも,前者の成果が必要であることか
ら,現行の教科書の問題, あるいはそれを元に生成した問題の解決に際して作図ツールを用いた
場合に,どのような学習活動の変化が可能かを分析することを, 本論文における課題とする。

  2.問題解決における作図ツールの役割

2.1 作図の役割の変化
 分析に当たって, 問題解決の中で作図ツールをどう使うのか,その前提を明確化しておく必要
がある。実際, 定規・コンパスによる作図と作図ツールによる作図では,作図自体の役割が変化
する。そのため,同じ問題が与えられたとしても,定規・コンパスを使った場合と作図ツールを
使った場合では,問題の実質的な意味と解決で実行可能なことが変化するからである。

2.2 問題解決における作図ツールの役割
 本論文では,作図ツールの役割を,主として次の観点から考える(1991,論文発表会) 。
(1) いろいろな場合を観察することを可能にする
(2) いくつかの点を元に作図手続きによって構成  するものとしての側面を強調する
(3) 「変形」「軌跡」「移動」「変換」等, 図形  に対する操作を容易にする

    3.容易になりうる学習活動

3.1 観察, 推測, 検証
  最も基本的な活動の変化は,観察, 推測, 検証あるいは反証という活動を支援し,図を見て考
える機会を増やす点である。
  例えば,四角形の四辺の中点を結び新しい四角形を作るとき,どのような四角形がつくれるか
という問題を考える。これに関連する問題は,仮定と結論がある程度明示されている場合が多い
。しかし,作図ツールを使えば,図1のような図の連続的変形の結果が観察でき,推測・検証等
が支援される。







図1 四角形の四辺の中点から四角形を作る

3.2 不変要素, 関数関係の抽出
 観察はただ漠然と行うわけではない。最初は漠然とした観察から始まっても, 次第に組織的に
観察し,仮説を作ることになる。
  観察をする際の基本的な観点に,「変わらないものはなにか」「何が変われば何が変わるか,
その関係は何か」という2つがある。例えば,中点連結定理の場合, 「点Aを動かしたときに, 
どんなことが起こるか」という問いに対しては,不変性に注目することになる。また「ΔABC の
内心をI とするとき,∠BIC を∠A で表せ」というような問題の場合,それらの関数関係を明確
化することが課題になるのである。







図2 中点連結定理を軌跡で理解する







図3 ∠Aと∠BIC の関係を調べる

3.3 どんな条件のときにどんな性質が成立するか
  「何が変われば何が変わるか, その関係は何か」という問題意識で観察するときに,数量同士
の関係の場合には,関数関係を発見することになる。しかし,どんな図形ができるか,あるいは
どんな性質ができるかに注目することも可能である。
  たとえば, 前述の中点によって四角形を作る問題の場合でも,発見しうるのは,□EFGHが平行
四辺形ということだけではない。□ABCDがどのような四角形のときには□EFGHがどのようになる
か,逆に, □EFGHがある性質を満たすためには,□ABCDはどんな条件を満たす必要があるか。そ
れらを調べることが,自然な課題となるのである。
゚繙繙繙繙繙繙繙繙繙辭繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙
艨@  □ABCD   艨@   □EFGH   
諞繙繙繙繙繙繙繙繙繙驢繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙
艾齡ハの四角形   苺ス行四辺形J    
苒キ方形J     苺H形J       
苺H形J      苒キ方形J      
苣ウ方形J     苣ウ方形J      
苴刹r台形J    艪スこ形J      
艪スこ形J     苴刹r台形      
苟ホ角線が直交する 苒キ方形       
苟ホ角線の長さが同じ苺H形        
苟ホ角線が直交し,J苣ウ方形       
苒キさが同じ    艨@         
瘋繙繙繙繙繙繙繙繙繙蜀繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙

3.4 特殊化, 一般化, 類比
 「平行四辺形ABCDの... 」というように,考察の対象となっている図形は一意的でなく,集合
をなす場合が多い。フリーハンドで図を書いて推論をするときは,典型的な図を書いて考察する
ことが多いが,作図ツールの場合, その図をいろいろと変形しながら条件を満たすそれぞれの図
を観察する。
 組織的に調べていくときの一つの方法は,いろいろな特殊な場合を調べることである。たとえ
ば,平行四辺形について調べる場合, 「平行四辺形」という条件に含まれる,長方形, 菱形, 正
方形など,様々な特殊な場合についても調べるようになる。あるいはある角がほとんど0 °,180
°など,極端な場合も調べ, その極限を考察したり,問題の条件から外れる場合などを調べるこ
とが,自然な活動となる4)。

3.5 「分析としての作図題」から「条件を満たす点の集合の発見としての作図題」
  作図題は,ある図形をどのような手続きで構成可能かを問うものである。通常の解決の場合, 
「それが書けたとすると」という仮定から出発し,図形の分析を行うことになる。その際, 実際
に,定規・コンパスを使って試行錯誤を行うことが問題解決に役立つことは非常に少ない。また
,問題が解決したとしても,実際に作図を行うことも多いとは限らない。たとえば,数学辞典に
は,「なお,図形が作図可能である場合にも,その作図法は一般には相当複雑であって,実用に
は適さないことが多いので,相当の精度を持った種々の近似的方法も知られている」という記述
があるほどである (岩波,3版,p.360) 。
  作図ツールは, 定規とコンパスと同様に,作図を行う道具であること,それを使うには作図の
手続きを明確化する必要があることを考えると,作図題の解決には作図ツールは役立たないよう
に思える。
 しかし,観点を変え「より一般的な図を作図しておいて,どんな条件を満たす点はどういうと
ころに取りうるか」という面から出発すると,様々な「条件を満たす点」の集合あるいはそれら
の共通部分として捉えアプローチできるようになる。
 例えば,「直線〓上に点Aがあり,〓の外に点Bがあるとき,Bを通ってAで〓に接する円を
作図せよ」という問題を考える。
 通常の場合ならば,「図が書けたもの」として,その図を分析し,円の中心がABの垂直二等
分線とAを通る〓の垂線との交点になることを推論することが解決過程となる。
 しかし,作図ツールを使えば,円をいろいろと変形する中で,垂直二等分線の意味,垂線の意
味を,円に関する条件を満たす点の集合として捉えなおしていくことが可能になってくる。






図4 点Aで接する様々な円






図5 点A,Bを通る様々な円
3.6 不可能性, 扱えない事例の発見
  従来, 与えられた問題を与えられた枠の中で解決するのが普通であった。生徒を困惑させるよ
うなものは回避できるよう教材も構成されていた。作図ツールを用いる解決においても,与えら
れる問題の性格は変わらないとしても,特殊化, 一般化, 類比等を行えば, 既習の知識では処理
できないような事実あるいは推測が生まれる可能性は高くなる。また,当然起こるはずの事柄が
起こらなければ, なぜそれが起こらないのか,つまり不可能性に注目する可能性も高くなる。
  例えば,「平行四辺形ABCDの4つの角の二等分線によって□EFGHを作るとき,□EFGHは長方形
であることを証明せよ」という問題を考える。作図ツールを使うならば,平行四辺形のみでなく
, 様々な四角形について調べることが自然である。そして,調べてみると,□EFGHがなりうる形
が限定されていることが分かる。例えば,□EFGHは一般の平行四辺形や菱形にはなりえない。こ
のような場合, なぜ平行四辺形にはなりえないのかという不可能性の証明が自然な課題として登
場する。
  また,前節で示した作図題を発展させ,「点Bを通り,直線〓に接する円の中心の軌跡」を調
べる問題を導いて調べる場合を想定してみよう。比較的簡単な操作によって,この条件を満たす
ような図を作図することができ,しかも軌跡を描画することも容易である。しかし,その結果と
して生じる放物線をきちんと扱うことはこの段階ではできない。この場合,結果は興味深いが,
後に別の観点から追求すべき課題が明らかになった例として位置づけられよう。
  あるいは,課題によっては,生徒がそれに関連する作図をいろいろと調べていく中で,図7の
ように,「グラフの概形は分かったが,それはどういう曲線として捉えていいか分からない」と
いうような事例に到達してしまう可能性もある。






図6 角の2等分から四角形をつくる。






図7 垂心のある軌跡

3.7 操作概念の利用
  作図ツールでは,変形, 軌跡等, 図形の操作を実際に行うことが簡単である。そのため,その
操作を通じて, その操作概念自身を学習する機会が増える。また,多くの場合,操作概念は,そ
の概念の獲得のみにその力点が置かれてしまいやすい傾向があるが,その操作を実際に実行でき
るため,問題解決のための手段として,あるいは問題生成のための手段として操作概念を利用で
きる可能性が高い。
 例えば,「ΔABC を点D を中心に点対称移動せよ」という問題に対し, 点D をいろいろと動か
してみると,様々な問題が発見できる。






図8 点対称移動による問題
 あるいは,「∠AOBがあるとき,平面内の任意の点Pに対して,PをOAに関して線対称移動
した点をQとし,QをOBに関して線対称移動した点をRとするとき,∠POR と∠AOB の関係を調
べなさい」という問題があったとき,点Pをいろいろと動かしたときに,Q,Rがどのように動
くかを調べることは,自然な課題となる。この場合には,軌跡を使うことによって,対称変換に
おいて,直線や円などがどのように写されるかを調べることに相当する。

       4.今後の課題
 本稿では,中学校の教科書の問題を分析して,作図ツールの導入に伴い,その可能性が高くな
る学習活動を抽出した。教育実践による検証は今後の課題として残されている。しかし,実践に
よる検証という課題以外にも,あるいは,実践による検証を行ないながら取り組むべき課題とし
て次のものがあることを付け加えておきたい。

4.1 既存の問題を作図ツールに適した問題への変  形の一般論
 一般に,教科書の問題をそのまま使っても,作図ツールを有効に使った学習活動の展開を期待
することは難しい。本稿では,教科書の問題のケーススタディの蓄積によって結論を導いたが,
作図ツールに適した問題に変形するための一般的な方略を確立する必要がある。

4.2 作図ツールに固有な問題生成の方略の明確化
 また,従来の問題の再構成のみでなく,作図ツールを使って初めて「問題」として取り組みう
るような問題を発掘することも課題である。それも,個別の問題を発見するだけでなく,一つの
「方略」として確立することが必要である。

4.3 生徒の活動としての問題の生成・発展
 上に述べた問題生成の方略は,主として,教材構成,授業構成のために必要なものである。し
かし,作図ツールの導入は,探究者自身の問題発見,問題設定,そしてその発展等の活動を支援
する。そのため,問題の生成・発展は,授業者のための課題としてだけでなく,より積極的に,
生徒の活動として位置づけ,問題生成という活動のための教材の開発も,作図ツール利用のため
の大きな課題である。

4.4 指導法の変化
 作図ツールの利用において,現行の教育とミスマッチであるのは,教材(問題)のみではない
。もう一つの大きなものは指導法である。一斉指導においても,個別指導においても,様々な変
化が必要とされる。それを明確化することが大きな課題として残っている。

          注
1.作図ツールという概念は,(1991D) の中で定義している。この概念に該当する主なソフトとし
Cては,次のものがある。
CGeometric Supposer, CABRI Geometre, GeoBLOCK, Geometric Constructor 
2.Geometric Constructor は,1989 年にver.2.0 で, 上越教育大学附属中学校で実験授業を行っ
Cて以降, 改良を重ね, 現在ver.4.0 に至っている。
C 主な機能としては,作図, 変形, 測定, 軌跡, 拡大・縮小, 分析, グラフ化, マクロの利用
C, 簡易オンラインヘルプ (機能別, 問題別の文書参照・保存) がある。 (配付資料参照) 
3.例えば,上越教育大附属中(1990)で示されている2つの授業例は,教材を通常の授業とはかな
Cり異なった扱い方をしている。佐々木(1991)は,GeoBLOCKを使って外心に関する問題を扱って
Cいるが,これも通常の扱い方とは異なるアプローチをしている。垣花(1991)は3つの課題につ
CいてCABRI Geometreを用いた場合とそうでない場合の比較を行っている。この課題は,教科書
Cでも扱っている問題を若干修正したものである。また,筆者は,大学生の問題解決過程の分析
C等を元にして,礒田他(1992)の中で6つの事例について考察している。
C  作図ツールのよさを引き出すためには,これまでのカリキュラムにとらわれない様々な教材
C開発が必要だが,そのためには,多くの研究と実践の蓄積が必要であり,今後の大きな課題で
Cある。
4.関数関係の発見のために中学校の生徒が特殊化をした事例は上越教育大附属中(1991)にある。
Cまた,仮説に対する反例を見つけるために,大学生が特殊化をした例は,(1991C) にある。

C       引用・参考文献
Schumann,H.(1991) "Interactive theorem finding through continuous variation of geometr
Cic configuratons", Jl of Computers in Mathematics and Science Teaching, 10(3), 81-10
C5 
Schumann,H.(1992) "Didactic Aspects of Geometry Learning in Secondary Education Using 
C the Computer as an Interactive Tool", Jl.of Computers in Mathematic s and Science T
Ceaching,11(1992),217-242
飯島康之(1990A) 「computerにおける図形の動的な扱いについて」, 筑波数学教育研究, 9,105-
C117 
(1990B) 「作図の構成的な側面とcomputerによる支援について −九点円の作図に関する数学的
C探究に焦点を当てて−」, 数学教育研究, 上越教育大学数学教室, 5,35-45 
(1990C) 「Computerによる動的な図形教材の開発の支援について− Geometric Constructor" を
C用いた探究的学習のために−」, イプシロン, 愛知教育大学数学教室, 32,56-75
(1990D) 「関数の考えの理解と適用に対するコンピュータによる支援について−基本的な考えの
C定式化と開発事例としてのGeometric Constructor −」,第23回数学教育論文発表会論文集,1
C61-166
(1991A) 「図形の動的な扱いとコンピュータ上での実現について」愛知教育大学教科教育センタ
Cー研究報告,15,341-352 
(1991B) 「作図の構成的な側面とコンピュータによる支援について(その2)−作図と変形に内
C在する関数的側面について−」, イプシロン, 愛知教育大学数学教室, 33,33-54
(1991C) 「Geometric Constructor を用いた問題解決における問題の変容について」, 日本科学
C教育学会, 年会論文集 15,357-360 
(1991D) 「作図ツールの導入に伴う作図の新しい役割について」第24回数学教育論文発表会論文
C集,275-280
(1992)「作図ツールを用いた問題解決における問題の変容と問題生成の一方略について−作図の
C構成的な性格とコンピュータによる支援について(その3)−」イプシロン, 愛知教育大学数
C学教室,34,32-48 
礒田,大久保,飯島(1992)『メディアを活用する数学科課題学習』明治図書
垣花京子(1992)「新しい幾何学習環境としての'GeoWorld'−「Cabri Geometry」の効果」, 筑波
C数学教育研究,11A,1-10 
佐々木棟明(1991)「数学教育におけるコンピュータの機能−ジオブロックによる三角形の外心の
C探索−」,学芸大数学教育研究,3,87-97
清水克彦(1991)「コンピュータの利用によって具現化される新しい幾何学習−幾何図形の変形を
C行うソフトCabri Geometre−」,日本科学教育学会,年会論文集,15,17-20 
上越教育大学附属中学校(1991)「コンピュータで授業が変わった」,図書文化